第7話 ブランク

 地中を移動しながらこちらへ近づいてくる大型のモンスター。

 これは……さっき話に出てきた、例のツリーシャークか?


「久しぶりに魔剣を使うか」


 長い旅の途中で、何度か戦闘になることはあった。

 その都度、レクシーやケーニル、フラヴィアが絡んできたチンピラだったりモンスターだったり、敵を倒してきたのだ。


 ……そう。

 戦闘面における俺の出番は最小限。

 だから、戻ってきて最初の戦闘となるこの場くらいは――俺の魔剣の力を発揮させてもらう。


「ぐがあああああああああっ!」


 地中から顔を出したのは、想定通りツリーシャークだった。

 いつだったかな。

 ある大陸で知り合った解錠士アンロッカーの少年から、ツリーシャークの話を聞いたことがある。彼もまた、俺の魔剣に匹敵する強大な力を持った剣を持っており、赤いポニーテールヘアーの女の子と協力して倒したと言っていたな。


「彼の剣もなかなか凄い力を秘めていたが――俺の魔剣も負けちゃいない」


 みんなを「見ていてくれ」と制止し、俺は剣に魔力を注ぐ。

今回は相手の特徴も考慮し、炎属性に変更した。


「はああああああああああっ!」


 こちらを丸飲みしようと、大口を開けて襲い来るツリーシャーク。

 だが、こっちも同じように真正面から立ち向かっていくと、予想外だったのか一瞬怯んだように映った。

 その隙を――俺は逃さない。


 魔力によって生みだされた炎に包まれた魔剣が、ツリーシャークを両断する。


「ギッ!?」


 あっという間に燃え上がって灰と化すツリーシャーク。

 そういえば、あの解錠士アンロッカーの少年が持っていた剣も、自由に属性を変化させる特性があると言っていたな。

魔剣以外にも似たような力を持った武器があるとは……恐らく、根本は同じ魔剣系統だが、その大陸によって呼び方が異なるのだろう。


「相変わらずの腕前ですわね」

「最近は全然戦闘に参加しないからちょっと心配していたけど……鈍っているわけじゃなくて安心したわ」


 フラヴィアとエルシーは俺が戦闘に参加できていないのに気づいていたか。

 まあ、俺としても今の戦闘はお世辞にもうまくやれたとは言えないな。ブランクがあるのは間違いない。


 ……今はもう、魔族六将も魔王シューヴァルもいない。

 

 戦う必要はなくなった――そう思っていたが、他の大陸ではそうもいかないらしい。

 あちらこちらで、戦いの火種になりそうな出来事と遭遇してきた。


 世界中に混乱を巻き起こそうとしている霧の魔女。

 天界を追放され、伝説の英雄たち《八極》に追われる堕天使。

 非合法となっている奴隷商を今なお続けている鉄道都市バーロンに巣食う闇の商会。


 これまで、魔族たちとの戦いに全力を注いでいた俺たちは知らなかった。

 世界はこんなにも危うい状況であるということに。


 いつかまた、誰かのためにこの魔剣の力が必要となる日が来るだろう。

 本当は商人の仕事に専念したいが……緊急事態となったやむを得ない。


「アルヴィン様、あっちにもモンスターがいるみたいです!」

「す、凄く大きなスライム……」

「惚れ惚れするような筋肉ね」

「あれも名前を聞いた記憶がありますわ」

「そうそう! 確か……マッスルスライム!」


 考えに浸っていると、すぐに次の敵が現れる。

 ……そうだった。

 今は目の前の仕事に集中するとしよう。

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