第6話 信じられない光景

 目の前に広がる光景が、ダンジョン内部のものであるとは到底信じられなかった。


「ここまで広大なダンジョンは見たことがないな……」


 別大陸の話になるが、草原のダンジョンと呼ばれる場所はあったし、実際にこの目で確かめてみた。そことまったく同じで、周りの明るさも合わせてまるで外にいるかのように錯覚してしまう。


「ダンジョン内の草原……あの地中を潜って移動するサメ型モンスターがいるかもしれませんわね」

「あっ、それなんて言ったっけ?」

「ツリーシャークですか?」

「それだ! さすがはシェルニ!」


 フラヴィア、レクシー、シェルニが楽しげに会話をしている一方、精霊使いのザラは何か気配を感じ取ったようで、ひとり険しい表情をしていた。

 それに気づいたケーニルが彼女に声をかける。


「どうかしたの、ザラ」

「……なんだか嫌な予感がします」

「嫌な予感?」


 俺が尋ねると、ザラはゆっくりと首を横へ振った。


「具体的に説明はできないんです。本当に、ただなんとなく……」

「大丈夫だよ、ザラ! 私たちは誰にも負けないから!」


 ケーニルが力こぶを作り、ザラを安心させようとする。

 うちでもトップクラスの戦闘力を持っているからな。これ以上頼もしいことはない。ザラもそのことをよく分かっているから、クスッと小さく笑って頷いた。


「ありがとうございます、ケーニルさん」

「なんのなんの」

 

 もうすっかり人間と同じ感性になったな、ケーニル。

 初めて会った時――あの頃は、まだ魔族六将のひとりだった《砂塵のデザンタ》の配下で、俺たちとは敵対関係だったな。

戦っているうちに、なんだかいろいろあって、気がついたらメンバーのひとりになっていたけど、今じゃ欠かせないうちのムードメーカーだ。


 ザラは嫌な予感がすると警戒していたが、それとは裏腹に草原のようなダンジョンは平穏そのものだった。

 特にモンスターが出るわけでもなく、ただただ広い空間がどこまでも続いている。

 それだけ聞いていると、特に問題がないように思えるが、ここはあくまでもダンジョンだ。


 ザイケルさんの話では、ループ系トラップが仕込まれているらしいけど……なるほど。これは確かに厄介だ。


「どこまでも続く同じ光景……これじゃあ、自分が今どこにいるのか、正確に判断するのは難しそうだな」


 特に目印になりそうな物があるわけでもないし、気がついたら元の場所に戻ってきてしまっていてもすぐには気づかない。正確なトラップまでの範囲が掴みづらく、それゆえに対処もひと苦労というわけか。


「思っていたより骨のありそうなダンジョンですわね」

「まったくだな。――うん?」


 フラヴィアとダンジョンの全体像について話をしていると、こちらへ近づいてくる気配に気づく。


「どうやら、お出迎えのようだ」


 このダンジョンに生息するモンスターが、俺たちに狙いを定めたらしい。

 ――それなら、


「こいつの出番だな」


 俺は早速魔剣を取りだし、敵を迎え撃つ態勢へと移った。

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