第174話 帰路
「達者でやりなよ、アルヴィン」
「メアリーさんも、お元気で」
魔剣が完全復活――どころか、さらにパワーアップを果たした翌日。
俺たちはダビンクへの帰路へと就こうとしていた。
「あんたたちも、元気でやるんだよ」
「いろいろとお世話になりました」
「また来ますよ!」
「元気でね!」
フラヴィア、レクシー、ケーニルの大人組が順番に握手を交わす。
シェルニ、ザラの年少組は握手に加えてハグで別れを惜しむ。
みんな、この短期間でメアリーさんとすっかり仲良くなったな。
「アルヴィン、みんなを悲しませるようなことをするんじゃないよ」
「わ、分かっていますよ」
「どうだかねぇ……あんたはどこかあの人に似ているんじゃよ。熱心になりすぎて周りが見えなくなる時がある」
「「「「「ああー……」」」」」
俺以外の五人は思い当たる節があるようだった。
そんなに無茶しているかな?
まあ、五人の反応が雄弁にそれを物語っているので、今後は気をつけていこう。
準備を調えると俺たちは馬車に乗ってメアリーさんの工房をあとにする。
メアリーさんは俺たちの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けてくれていた。
◇◇◇
レイネス家のクエストから始まった今回の長期遠征。
日数的にはそれほど経過していないが、このダビンクへ戻ってくるのはもう何年振りかってくらいに久しぶりの感覚があった。
裏を返せば、それだけ今回の遠征の内容が濃かったということだ。
「うーん……なんだか凄く久しぶりに帰って来たって感じがするわ~」
「途中でいろいろとありましたからね」
レクシーとシェルニも、同じ感覚のようだ。
「我が家にも異常はなさそうだな」
強力な結界魔法を仕掛けておいたから、勝手に店内へ入ることは叶わないだろう。それを解いて住居兼店舗へと入る。
途端に広がる懐かしい匂い。
「なんか、しばらく家を空けて戻ってくると、俺の場合はこう、匂いがまず懐かしいと思えてくるな」
「その感覚はわたくしも分かります。遠方で開かれた舞踏会から住み慣れた屋敷へ戻ってきた時は、その匂いでなんだかホッとしますもの」
俺の場合は舞踏会なんて高尚なものじゃないけど、まあ、感覚としては一緒か。
「さて、と」
荷物を馬車から下ろし終えると、シェルニたちは店の中へ。
一方、俺はというと、
「フラヴィア」
「なんですの?」
もはやここにいることが当たり前になっている御三家令嬢へ声をかける。
「俺はこれからギルドへ顔を出してくる」
「あぁ……そうですわね。長らく不在にしていましたから」
「ザイケルさんにも今回の件を報告しておきたいし」
「分かりました。でしたら、わたくしも同行しましょう」
「えっ? いや、今回は俺ひとりでも――」
「では、シルヴィアさんたちにその旨を伝えてきますので、少しお待ちください」
有無を言わさず、フラヴィアの同行が決まった。
◇◇◇
ギルドはいつもと変わらず盛況であった。
ただ、間もなく日が暮れる時間帯となるため、帰り支度を始めている者もチラホラ見受けられる。
とりあえず、受付カウンターへ向かうと、
「アルヴィンにゃ!」
リサが俺を見つけるなりカウンターを飛び越えて抱きついて来た。
さらにその後ろから、
「旦那! お久しぶりです!」
「ネモじゃないか! いつこっちへ?」
「一昨日です」
再会を喜び合う俺たち。
その横で、腰に抱き着くリサを必死に引きはがそうとしているフラヴィア。
「帰りが遅すぎるにゃ! って、なんか剣が変わっているにゃ!」
「あ、ああ、いろいろあったからね。その報告をザイケルさんにしようと思うんだけど、いるかな?」
「奥にいるにゃ! 今呼んでくるにゃ!」
ドタバタと大慌てでザイケルさんを呼びに行くリサ。すると、
「戻って来たかぁ!」
リサ以上にドタバタしながら、ザイケルさんがやってくる。
うん。
日常が戻って来たと実感するよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます