第173話 絆の魔剣

 ついに魔剣が復活の時を迎える。


 工房へと案内された俺たちの前に姿を見せたのは、布がかけられた状態で作業台の上に置かれた魔剣だった。


「ただつなぎ合わせただけじゃないよ。諸々強化してあるからねぇ。こんないい剣は滅多に見られないから、ついついはしゃいでしまったんじゃ」


 嬉しそうに語りながら、メアリーさんは布に手をかける。


「さあ、ご覧――あんたの新しい相棒じゃ」


 バッと布を取り去り、姿を見せた新しい魔剣。

 

「「「「「おぉ!」」」」」


 女性陣からは歓声があがる。

 俺もそれにつられて「うおぉ……」と感嘆の声が漏れた。


 まずその見た目だが、重厚さが以前のものよりもアップしている。

 全体的にちょっと横幅が広がったようだ。

 さらに、刃の部分には銀魔鉱石がふんだんに使用され、角度を変えて見るたびに星の瞬きのようにキラキラと光っているのだ。


 次に、魔剣を手に取ってみた。


「おっ!?」


 そこでもまた思わず声が漏れる。

 重厚さがアップしたことで、剣自体の重量もまた同じようにアップしているものだと思っていた。


 だが、実際はむしろ以前よりも軽くなっている。


「驚いたかい?」


 俺が剣を持ったまま動かないことで、自分の狙い通りの反応をしてくれたと思ったメアリーさんがドヤ顔で尋ねてくる。

 ……まあ、ドヤ顔したって許されるよ、このクオリティなら。


「ただ軽くしただけじゃないよ? 強度はむしろ前よりも増しているくらいさ」

「なぜここまで軽くて頑丈にできたんですか?」

「その秘密が銀魔鉱石と一角狼の角じゃよ。このふたつが大量に、それも上質な物ばかり手に入ったから、あんたの魔剣は復活できたんじゃ」


 それって、つまり……


「言ってみれば、その魔剣はあんたと仲間たちの絆の剣じゃ」

「絆の剣……」


 そう。

 シェルニ、フラヴィア、レクシー、ケーニル、ザラ――五人が協力してくれたから、俺の魔剣は復活できたんだ。

 もし、俺ひとりだったら普通に修復して終わりになっていただろう。……いや、そもそも修復すら難しいかもな。


「早速使ってみてはいかが?」


 フラヴィアはニコニコ微笑みながらそう言った。


「さっきから力を試してみたいと表情に出ていますわよ?」

「そ、そう?」


 顔に出ていたとは……言い訳をさせてもらえば、それだけ新しい魔剣が魅力的であるとも言える。なんというか、筆舌には尽くし難い魅力というのか。剣士ならば、これほどの上等な剣を手にすると、誰だって同じような気持ちになると思う。


 とはいえ、むやみやたらに斬りまくるなんて通り魔みたいなマネはできないので、とりあえずは魔力を錬成してみるところからはじめてみた。


 大切なメアリーさんの工房に何かあってはいけないので、俺は外で魔剣の力を試してみることにした。

 みんなを引き連れて屋外へと出ると、早速意識を集中する。


「ふぅ……」


 大きく息を吐きながら、魔力属性を炎に変える。

 すると、


「!?」


 湧き上がる炎のイメージに、俺の手は震える。

 なんだ……これ?

 今までとは比べ物にならない。

 身体の奥底から無限に魔力が湧き出てくる感じ――これが、俺が本来持つ魔力量なのか?

 ともかく、あとはこれまでと同じように、魔力で炎を生み出し、剣にまとまわせてみよう。

次の段階へ進むため、俺が魔剣を構えた直後、


 ゴウッ!


 という音を立てて、俺の周囲に火柱が立ちのぼった。


「わあっ!?」


 その圧倒的な魔力量に、俺は思わず供給をストップ。

 周りも「まさかそこまで」といった感じに凍りついており、感想のひと言さえ口をつかない状況だった。

 ただひとり、


「かっかっかっ! 実に見事な炎じゃ!」


 メアリーさんだけは拍手喝采だった。


「少しやりすぎたかなとも思ったが……お主ならその剣を使いこなせるじゃろう」

「はい! ありがとうございました!」


 俺は深々と頭を下げる。

 そして、今度は振り返り、


「シェルニ、フラヴィア、レクシー、ケーニル、ザラ――これもすべてはみんなのおかげだ! 本当にありがとう!」


 他のメンバーへ一斉に頭を下げて感謝の言葉を贈る。

 みんな、最初はちょっと緊張していたようだが、最終的には笑顔で受け止めてくれた。


 俺たちの絆の魔剣。

 こいつがあれば、誰にだって負けない。

 心から俺はそう思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る