第172話 休暇
魔剣が復活するまでの間、俺たちはメアリーさんの家でお世話になることになった。
一日の大半を工房で過ごすメアリーさんにとって、こちらの家は食事と睡眠をとるだけの場所だという。なんなら、工房でご飯を食べたり寝たりすることもあるので、こちらは本当に存在感が希薄なのだとか。
それを見たうちの女性陣――というか、まずフラヴィアが立ち上がる。
「こちらのお家をお掃除いたしますわ」
淑女らしく、落ち着いた物腰でメアリーさんに言う。
「それはありがたい提案じゃが……いいのかい?」
「もちろんですわ」
胸を張るフラヴィア。
他の女性陣もその提案に乗り気のようだった。
俺としても、パッと見たところ屋根とか壁とか諸々傷んでいるようだから、これを機に修復しておこうかな。
と、いうわけで、メアリーさんが魔剣を修復してくれている間、俺たちはメアリーさんの家の修復に取りかかることにした。
まずは準備段階として、家の大掃除から始めることに。
「とりあえず、家具を協力して一旦外へ出すか。重い物は俺が担当するから、みんなは軽めの物を頼む」
俺がそう指示を出すと、全員「はーい」と元気よく返事をする。
それから、手分けしていろんな物を外へ出したが……思いのほか量が多い。
メアリーさん自身は滅多に外へ出ないそうで、ここへはキースさんの商会に属する行商人がやって来るそうだが、その際にいろいろと購入して使わずじまいというケースが多いらしい。
食品は保存がきくものを中心に買い揃えているらしいから問題ないようだが……なんというか、彫刻みたいな置物系が多いな。
「創作のヒントにしているのでしょうか?」
「……っぽいな」
シェルニは手にした魚をくわえる熊の木彫りを眺めながら言った。
言われてみれば、その線もなくはない――のかな?
「あっ、これ可愛いです!」
「こっちも捨てがたいわね」
「私はこっち!」
ザラ、レクシー、ケーニルの三人はその置物に夢中となって手が止まっている。掃除をしている時にありがちな現象だな。
「ほら、早く全部出して掃き掃除をしないと午前中に終わりませんわよ?」
そこへ、頭にタオルを巻いてお掃除モードのフラヴィアが三人を急かす。
なんかもう、五人姉妹の長女って感じが板について来た。
家の中のものを出し終えると、窓を全開にして掃き掃除を開始。たまった埃を外へと追い出し、続いて床や壁を拭いていく。
それらが終わると、一旦昼食をとるため休憩に。
「今日は朝作っておいたサンドウィッチです!」
「私たちが作ったよ!」
担当したのはシェルニとケーニルだった。
「どれどれ……うまい! シェルニはもちろんだけど、ケーニルも腕をあげたな」
「えへへ~♪」
照れ笑いを浮かべるケーニル。
このやりとりを見て、夕食担当のレクシーとフラヴィアは、
「負けられないね」
「そのようですわね」
と、対抗心を燃やしていた。
切磋琢磨して腕を磨き合うのは良いことだ、うん。
結局、この日は大まかな掃き掃除と拭き掃除で一日が終了。
掃除だけで一日が終わるなんて……逆に言えば、こんなにのんびりと過ごしたのは久しぶりなのかもしれない。
「楽しかったですね、お掃除♪」
「まだまだこれからですわよ、シェルニさん。明日は大洗濯祭りですわ!」
掃除の楽しさに目覚めたフラヴィア。
これまで、屋敷の掃除とかずっとメイドさんがしていただろうし、新鮮に感じたのかもしれない。一番張り切っていたしな。
こうして、俺たちにとっては休暇のような三日間はあっという間に過ぎていき――とうとう、
「アルヴィン……完成したよ」
魔剣復活の時を迎えた。
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