第130話 変化
シェルニの過去を知る男――コナーからさらに詳しい話を聞くため、本日はこれにて臨時休業。
時間も時間なので、話は昼食を食べながらしようということになり、フラヴィアとシェルニが協力して用意することとなった。
「シェルニさん、お野菜を切っていただけますか?」
「はい♪」
「…………」
ふたりが仲良く料理している様子を、コナーは興味深げに眺めていた。
「あのシェルニ様が他人と一緒に料理なんて……」
「えっ? いつもやっているよ?」
不思議そうに言うケーニル。
――ちなみに、魔人族であるケーニルがいることで、コナーはだいぶ取り乱していたのだが、危険性がないと分かるとすぐに落ち着きを取り戻した。
「……城にいた頃のシェルニ様はとにかく人見知りをする方で、使用人であっても、初めて会う者には漏れなく口を開かなかったのです」
確かに、俺と出会った当初のシェルニはまったく話そうとしなかった。徐々に打ち解けて、今ではとても明るい子になった。
「……ここでの生活が、あの方に好影響を与えているようですね。家族以外には滅多に笑顔を見せなかったというのに、まさかここまでとは……」
「そう言っていただけるとこちらも助かります」
どうやら、コナーは以前の人見知りなシェルニに不安を抱いているようだった。
その後、運ばれてきた料理を目の当たりにし、思わず「これを姫様が!?」とさらに驚くコナー。
ただ、シェルニの方はコナーのことを思い出せないようで、「おいしいです!」と泣きながら食べているコナーの姿を見て困惑しているようだった。
「さて、それでは本題に入りましょうか」
気づけば料理をたいらげていたコナーは、急に真面目な口調になって話し始める。
「シェルニ様……あなたはローグスク王国の姫君なのです」
「「!?」」
真実を知ったシェルニとフラヴィアは絶句。その横で、呑気に料理を食べながら、「お姫様だったんだぁ」と笑うケーニル。
「ローグスク……となると、ここからだいぶ離れていますわね」
「知っているのか、フラヴィア」
「ええ。父が一度訪問したことがあったはず」
「ベリオス様が?」
「!? い、今、ベリオス様と……」
「うん? ああ、言い忘れていたけど、こちらはフラヴィア・オーレンライト――オーレンライト家の御令嬢だ」
「なっ!?!?!?!?」
ハイゼルフォード、魔人族、そして最後にオーレンライト家。さらにシェルニが王族の人間となると……うちの店のメンツってやっぱりヤバいな。
「オ、オーレンライト家の令嬢まで……アルヴィン殿、あなたは一体何者なんですか?」
「? 俺はただの商人だが?」
「いやいや……ただのってことはないでしょう……」
と、言われてもねぇ。
俺としては、意識して今のメンツを集めたわけじゃない。救世主パーティーから追放されて、商人として生きていくのに精いっぱいだったからなぁ……。
「コナーさん――と、仰いましたね」
「あ、は、はい」
思わず声が上ずるコナー。
まさかこんなところで、大国エルドゥークの御三家令嬢と出くわすなんて思っていないだろうから、相当驚いただろうな。
「そちらのアルヴィンさんは大変信用のおける人物です。このフラヴィア・オーレンライトが、それを保証しましょう」
「は、はい! ……オーレンライト家の令嬢にここまで言わせるとは……」
信用されているようで何よりだ。
そして、これがきっかけとなり、コナーはこれまで語らなかった、ある《疑惑》について口にした。
「あなたにでしたら……相談してもよさそうですね」
「相談?」
「はい。――実を言うと……我々王国騎士団は、シェルニ様誘拐事件を裏で手引きしている者がいると睨んでいます」
その言葉に、今度は俺たちの方が驚いた。
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