第129話 再会

 いつも「追放された魔剣使いの商人はマイペースに成り上がる ~前世で培った《営業スキル》が異世界で火を噴く!」をお読みいただき、ありがとうございます。

 このたび、第2回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテストにて、本作が特別賞を受賞し、書籍化が決定いたしました。

 これもお読みいただいた皆様のおかげです!

 本当にありがとうございました!



…………………………………………………………………………………………………





 シェルニの両親が王族だった。

 その衝撃的事実を突きつけられた俺たちは、シェルニを捜している王国騎士のコナーを連れてダビンクへと引き返していた。


 その道中、コナーからシェルニの両親が治めているローグスク王国が、どのような国であるのか説明を受けた。


 ローグスク王国。


 人口はおよそ二千人というかなり小さな国。

 海と山に囲まれた自然豊かところらしく、そうした場所で採れる海の幸や山の幸が国の産業を支えていた。


 牧歌的で穏やかな国。

 ――が、そんな平和を根こそぎ引っこ抜くような大事件が起きた。


 それが「シェルニ姫失踪事件」なのだという。


「シェルニ姫……」


 コナーは当たり前のようにそう言っているが、正直、シェルニを妹のように思っている俺たちにはまったく馴染めそうにない肩書だった。


 話を戻して。

 問題はなぜそのような悲しい事件が起きてしまったのか、という点だ。


「原因については……何も分かりません」


 俯くコナーは、下唇を噛みしめ、悔しそうに言う。


「下衆な奴隷商どもにシェルニ姫様を奪われた……そのせいで、国民は嘆き悲しみ、王妃様に至ってはショックのあまり寝込んでしまい、日々衰弱していく……」

「そうだったのか……」


 どうやら、事態はこちらが思っていた以上に深刻なようだ。


「でも、急に『君はとある国のお姫様なんだ』と言っても、シェルニは困惑するだけじゃないかしら」


 レクシーの心配はもっともだ。

 というか、俺もそれを危惧している。

 本人は、「自分の過去を知りたい」と語っていたが、まさかお姫様とは……。


「ですが、私としては一刻も早く、特に王妃様には……」

「俺としても、シェルニが生きて、ここで元気に暮らしているという事実を、弱っているという王妃様に伝えた方がいいとは思っている」

 

 すべてはシェルニの気持ち次第。

 そのためにも、やはり真実をそのまま伝えた方がいいのだろうか。



  ◇◇◇



 ダビンクにある俺たちの店に到着。

 

「おかえりなさい、アルヴィンさん、レクシーさん」

「おっかえり~」


 まず出迎えてくれたのはフラヴィアとケーニルだった。その後ろから、


「おかえりなさい、アルヴィン様♪」


 元気にシェルニが駆け寄ってくる。

 その姿を見た直後、コナーは、


「うおぉ……!!」


 その場に膝から崩れ落ちた。


「えっ!? な、何!?」

「きゅ、急にどうしましたの?」


 この事態に、何も知らないフラヴィアとケーニルは動揺。さらに、


「よくぞご無事で――シェルニ様!!」


 その叫びを耳にした瞬間、シェルニの目がカッと見開かれる。

 お?

 何かを思い出したか?


 ――と、期待したのだが、シェルニはコナーの異様な迫力に怯えた様子で、フラヴィアの背後にササッと隠れてしまう。


「お忘れですか!? 私です! 近衛騎士のコナーです!」


 必死に訴えれば訴えるほど、シェルニはどんどん怯えていく。一方、


「近衛騎士……?」


 その言葉に対して真っ先に反応を見せたのはフラヴィアだった。自身も、かつて近衛騎士を率いてダビンクの冒険者ギルドに押し寄せた過去があるため、その役職が何を意味しているのか、瞬時に読み取ったようだ。


 ――ただ、シェルニの場合は貴族でなく、王族だが。


「とにかく、一度落ち着いて話をしよう」


 俺は興奮するコナーの肩に手をかけて、そう諭す。そこで、コナーも自分が迫っていることでシェルニが怯えていることに気づき、同時に、記憶喪失というのが事実であることを実感したようだ。


「ぐぅ……なぜこんなことに……」


 記憶を失くしたシェルニを前に、涙を流すコナー。そこへ、


「大丈夫ですか?」


 シェルニが近づき、そう声をかける。

 顔を上げたコナーはハッと我に返り、涙を拭って表情を引き締めた。


「申し訳ありませんでした。あのような情けない姿をさらしてしまい……」

「い、いえ、そんな……」


 深々と頭を下げたコナーに再び動揺するシェルニ。

 動揺続きで悪いが、ここで本人に大切なことを教えておこう。


「シェルニ」

「? なんですか?」

「この人が……君の過去を知っている人だ」

「!?」


 表情では驚いている――が、すぐに口をキュッと真一文字に結び、コナーへ向かって語る。


「教えてください……私が何者なのか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る