第131話 真実を知るために

 王国内に姫であるシェルニを誘拐させた黒幕がいるかもしれない。

 コナーがもたらしたその可能性にもっとも衝撃を受けたのは――他の誰でもない、シェルニ自身だった。

 

「…………」


 青ざめた表情で俯くシェルニ。

 無理もない。

 いきなり某国のお姫様だと言われた挙句、そこの家臣に裏切り者がいて、自分はそいつの手により奴隷として売り飛ばされる直前だった。シェルニの記憶が失われているのは、そうしたショッキングな体験が引き金となっているからかもしれない。


見かねたフラヴィアが「あちらの部屋に行きましょう」と肩に手をかけて促すが、シェルニは首を横へ振って拒否。

 

「大丈夫です、フラヴィアさん。最後まで聞きます」

「シェルニさん……」


 そこにはもう泣き顔のシェルニはいない。

 ここでの経験が、本当に強く変えた――そう言っていいだろう。


「それに、睨んでいるということは確証があるわけじゃないんだろう?」

「え、ええ……ただ、そうでなければ説明がつかない点がいくつかありまして」

「ほほう」


 俺たちはコナーからさらに詳しい話を聞くことにした。


「まず、我々がもっとも怪しいと感じたのは、シェルニ様の護衛がもっとも手薄になるわずかな時間帯を的確につき、用意周到に襲撃してきたことです」

「なるほど。いつ隙ができるか分からないまま待機するより、あらかじめそれが分かっていれば、装備も万全の状態で襲えるからな」


 となれば、やはりコナーの見立て通り、内通者がいると見た方が妥当か。


「その内通者に心当たりは?」

「そ、それが……」


 口ごもるコナー。

 どうやら見当すらついていないようだが、もしそうならシェルニを国へ戻すわけにはいかない。


「本当にシェルニを陥れようとしている者がいるなら、その正体が分からない以上、シェルニを帰すのは危険なのでは?」

「ぐっ……」


 コナーとしては、一刻も早くシェルニを連れ帰り、国王や王妃と再会させたいのだろうが、当の本人に両親の記憶がなく、さらにその身を狙う輩が潜伏しているとなったら危険性はグッと高まる。


 それでも――シェルニは王国へ行きたそうな顔をしていた。


 出会って数ヵ月の付き合いだが、分かる。

 きっと、本人も自分が今の状態のままローグスク王国へ向かうことはとても危険な行為だと理解しているのだろう。だから口にこそしないが、両親や親しかった人たちと会えるかもしれないという希望は手放したくないといった感じか。


「……よし」


 ならば、その望みを叶えるために――人肌脱ぎますか。


「シェルニをこのまま国へ帰すのは、賛成できない」

「は、はい……」

「だから、早急にその黒幕とやらを炙りだし、しかるべき対処をもって安全を確保した後で帰ればいいと思う」

「! なるほど。そういうことは得意ですものね、アルヴィンさんは」


 俺の狙いを悟ったフラヴィアが、含みのある言い方をする。それに、コナーはすぐさま飛びついた。


「得意――と、いうと?」

「まあ、悪党退治は慣れているということだ。それに、俺がシェルニを保護していると関係者に話をばら撒いておけば、向こうから接触を試みるだろうよ」

「た、確かに……」


 シェルニが奴隷商の手から離れ、俺が保護し、この国へ送り返したいとローグスクの国王に報告すれば、黒幕は必ずアクションを起こすはずだ。


「そうと決まったら、明日にでも出発しよう」

「わたくしも同行しますわ」

「いや、フラヴィアは面が割れているし、エルドゥークの御三家令嬢が一緒となると、向こうも俺に手を出しづらくなるだろうから……レクシー、一緒に来てくれるか?」

「分かったわ」


 レクシーも元御三家の令嬢だが、彼女自身がローグスクへ渡ったことはない。さすがに魔人族のケーニルを連れていくわけにもいかないので、今回の相棒はレクシーオンリーとなりそうだ。


「まあ、仕方がないですわね」

「頑張ってきてね、ふたりとも!」

「お願いします」

「ああ、任せてくれ」

「シェルニをひどい目に遭わせた張本人……必ず引きずりだしてやるんだから!」


 こうして、俺とレクシーのローグスク行きが決まったのだった。

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