第106話 異変
ダンジョン内部は俺たちが訪れた時とはまるで雰囲気が違っていた。
人が多い。
入ってしばらくすると、天井の開いた広い空間に出るのだが、そこに複数のテントが設置されていた。外にもかなりの数の冒険者がいたが、中は想定以上の数だ。これ全員、ザイケルさんが集めたのか。
ダビンクは商業都市として大陸でも屈指の大きさである。
その町の冒険者ギルドを仕切っているザイケルさんが一声かければ、これだけの人を集めることができるってわけだ。さすがだな。
ザイケルさんの人望に驚きつつ、俺たちは顔見知りの冒険者へ声をかけながら、そのザイケルさんを捜す。すると、複数人従えて奥の方へ潜っていったらしいことが発覚。
「まずいな……こりゃもしかしたら、今日中には戻らないかも」
「日を改めた方がよろしいかもしれませんわね」
「そうだな。……しょうがない。俺たちもその辺を探索してみ――」
ドォン!
俺が話している途中で、突如轟音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「何があった!?」
「大型モンスターの襲撃か!?」
パニックになる冒険者たち。
すると、岩壁を突き破り、何かがダンジョン内へと侵入してきた。
「あ、あれは!?」
俺たちの前に現れたのは――植物の「根」だった。
見たことのない太さの根が、次々とダンジョン内へと入り込んでくる。
まずいな。
このままだとダンジョンが崩落するぞ。
「ア、アルヴィン様!」
シェルニが不安げにこちらを見つめながら叫ぶ。
……分かっているよ。
悔しいが、ここは、
「撤退だ!」
俺が指示を飛ばすと、フラヴィアはシェルニの手を取って出口へ。レクシーもそれに続く。俺は周囲の冒険者たちへ避難するよう誘導したが――間に合わなかった。
ガラガラガラ――と、激しい音を立てて、ダンジョンの天井が落下。
大量の岩が豪雨のように迫ってくる。
「このっ!」
俺は魔剣を抜くと、
「グラヴィティ・ブレード!」
ケーニルを倒す時に使った重力を操る魔法。
それで、落下する岩を浮き上がらせ、大惨事を防いだ。
「おお!」
「これが噂に聞く魔剣の力か!」
「早く逃げろ!」
感心している冒険者たちを急かして、誰もいなくなったことを確認し、俺も安全圏まで避難してから魔法を解除。
本当なら、ザイケルさんたちの安否が確認できるまでキープしておきたいところだったが、さすがにあの量をいつまでも浮かせておくのはしんどい。
「しかし……これは一体……」
植物の急成長?
それにしては不自然だな……。
いくらなんでも、あんな育ち方するか?
「アルヴィン、大丈夫!?」
戻ってきたレクシーは、見るも無残な状態となったダンジョンを見て愕然としていた。
「な、何よ、これ……」
「育ち盛りの植物――とは言えないよな」
ダンジョン全体を呑み込もうとする勢いで、未だに成長を続けている巨大な根っこ。明らかに異常だ。
「っ! まさか……」
俺の脳裏に一瞬浮かんだのは――砂塵のデザンタ。
ヤツは砂を自在に操る魔族六将のひとり。
砂を操れる者がいるなら、植物を自在に操れるヤツがいてもおかしくはない。
とはいえ、確証があるわけじゃない。
ほとんど直感のようなものだが、不思議と自信があった。
これは……魔族六将の仕業だ。
「旦那ぁ!」
呆然としていると、ネモが全力疾走で近づいてくる。
「無事ですか!?」
「この通り、な。でも、奥の方を探索しているザイケルさんたちは……」
「すぐに救助チームを結成して助けに行きます!」
「ああ、頼む。俺は……少し外の様子を見てくる」
「はい!」
「行こう、レクシー」
「ええ!」
俺はレクシーと共に出口へと向かう。
外ではすでにフラヴィアとシェルニが待っていた。
「大丈夫だったか、ふたりとも」
「アルヴィン様!」
「アルヴィンさん……あれを」
「えっ? ――うっ!?」
俺は息を呑んだ。
つい数分前まで目立った特徴のなかったただの森――だが、今は先ほどよりもずっと高い背丈の木々がダンジョンの周りを囲っている。
これは……只事じゃないぞ。
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