第294話 現状把握
ついにたどり着いた魔界。
俺たちの住んでいる人間界とはまるで違う場所――空も木々も、川に流れる水の色さえ異なる。
不思議な感覚だ。
周りの風景は人間界でもありふれたもの。
だが、色彩が違うだけでこうも違って見えるのか。
俺たちは黒い葉が揺れる木々の合間を縫うようにして森を進んでいく。
レクシー、ヒルダのエルフコンビに案内役を務めるケーニルの計三人が先頭を進み、中段では俺とフラヴィア、シェルニとザラの四人がブライス王子を囲んでいる。後方にはコナーさん率いるローグスク王国騎士団が展開している。
今のところ、モンスターとは遭遇せず。
しかし、何が待ち構えているか……一瞬たりとも油断はできない。
そんな中、魔界の事情に詳しいケーニルの存在は心強かった。
俺たちでは迷子になってしまいそうな森の道も、ケーニルはスイスイと進んでいく。しばらく進んでいると、小川のせせらぎが聞こえてくる。
「あの小川で一度止まるよ」
「? 何かあったの?」
先頭を行くケーニルからの提案に、レクシーはその真意は尋ねた。
「小川から先は少し道が複雑になっているの」
「複雑?」
道順や方角が分かっていても、一筋縄ではいかない。ケーニルは小川から先の森をそう分析している。
一体、それはどういう意味なのか。
実際にその場へ行ってみて……意味が理解できた。
「な、なんだ、これは……」
信じられない光景を目の当たりにした俺たちは、小川のほとりで呆然と立ち尽くしていた。
小川から先に広がる森。
その森を構成する木々が――移動していたのだ。
地面から根を出し、それを足のようにしてあちこち動き回っている。
「な、何なんですの……」
「木が動いています……」
フラヴィアやシェルニも、人間界では拝めない光景に動きが止まってしまっていた。
「ここの森の木は一日二回、決められた時間になるとあんな風に動き回るの。たぶん、あと数分で動きは止まるだろうから、それが終わってから行こう」
「それはいいが……道は分かるのか?」
「バッチリ!」
笑顔で言い切るケーニル。
頼もしい限りだよ、まったく。
それからおよそ五分後。
ケーニルの言った通り、木々の動きはピタッと止まり、足のように使っていた根は再び地面の中へと収まった。
「これでもう今日は動かないはずだよ」
「よし。川を渡るぞ」
ブライス王子の指示を受け、俺たちはすぐに川渡りを開始。
川は浅く、渡るのに何の問題もない。
やってきて早々に、魔界は人間界の常識が通用しないという事実を突きつけてきた。ここは、ケーニルの知識がおおいに俺たちの助けになった。もし、この場にケーニルがいなかったら、俺たちは今頃パニックに陥っているだろう。
こうなってくると、リシャール王子率いる連合軍は無事だろうか。
独自の情報網があるかもしれないが……もしかしたら、思いのほか大きな被害を受けているかもしれない。
いずれにせよ、俺たちは進むしかない。
この森を抜ければ、魔王城は目前だ。
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