第295話 魔王城

 いきなり魔界の洗礼を食らうことになった俺たちだが、ケーニルのおかげで被害が出ることはなかった。


 道の変わった森の中を、ケーニルの案内で進んでいく。

 その途中で、ようやくモンスターと遭遇。

 しかし、ケーニルの言った通り、こちらの戦力でも十分に戦っていける。その戦いように、みんな確かな手応えを感じていた。


「なんだ、魔界と言ってもたいしたことないな」

「おいおい、油断するなよ」

「ここらにいるのはまだ雑魚だ。本命はダビンクの町を襲ったような魔人族だ」

「おうよ!」


 自信をつけても慢心はない。

 全員、ダビンクで魔人族の脅威を目の当たりにしている。

 おまけに、相手はかつて人間だった元救世主ガナード。

 それが、あのような姿になり、町を襲った。さらに、そのガナードを一瞬にして葬った氷雨のシューヴァル――ヤツの存在もまた、周りにいい緊張感を与えていた。


 とはいえ、彼らがシューヴァルと直接戦うことはないだろう。

 やれるなら……聖剣を持つリシャール王子か――俺だ。


「…………」


 魔剣の柄を握る手に力が入る。

 今の魔剣は、メアリーさんによる強化が加わっている。初めてシューヴァルと戦った時よりも段違いにパワーアップしているのだ。


「怖い顔をしていますわよ? もう少し肩の力を抜いていきません?」


 自分でも気づかないうちに、気持ちが高ぶりすぎていたようだ。それを見抜いたフラヴィアにたしなめられる。

 やれやれ……表情だけでこちらの心理をあっさりと見抜かれてしまうとは……それだけ付き合いが長いということでもあるが。


 フラヴィアからのひと言で、程よくリラックスできた――ちょうどその時、深い森の先に光が見えた。


「! 出口だよ!」


 先頭を行くケーニルが、振り返りながら叫ぶ。

 それはつまり、魔王城が目前に迫っていることを意味していた。周りの騎士や冒険者たちも、いよいよ近づく決戦に向けて気持ちを再度引き締める。


 自然と進むスピードが速くなっていく。

 そして、森を抜けた俺たちの目に飛び込んできたのは――


「うおっ……」


 思いがけない絶景だった。

 周りの色彩が人間界のものとはまるで違うとはいえ、これは……「凄い」のひと言に尽きる。

 まず目につくのは、ケーニルの話にもあった広大な湖。一瞬、海と見間違えてしまうくらいの大きさだ。

 そのほとりにある大きな城。

 闇色に包まれたそこは間違いなく――


「あれが……魔王城か……」


 ついに俺たちの前に姿を現した魔王の居城。

 ここからまだ距離があるものの……そこから流れ出てくる禍々しい魔力は俺たちのもとへ届いていた。


「恐ろしい魔力ですわね……」

「は、はい……」

「うぅ……」


 うちのメンツでは特に魔力への感度が高いフラヴィア、シェルニ、ザラの三人は、魔王城から漂う魔力を前に少し怯えている。


 一方、俺はまったく違うことが気がかりだった。


「……連合軍の姿が見えない?」


 現在地は魔王城と湖の位置を一望できる。

 だが、そこからの眺めに連合軍と思われる人間たちの集団は確認できなかった。


「ブライス王子……これは?」

「お、俺にも分からない。リシャールの計画では、すでに魔王軍とは交戦状態にあるはずだが……」


 そうは言うものの、大規模な戦闘が繰り広げられている気配さえ感じない、穏やかな光景だ。


 一体、連合軍に何があったんだ?

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