第247話 新たな依頼

 エルドゥーク王国が新たに同盟を結ぼうとしている種族。

 それはきっと、


「……エルフ族ですね」

「さすがだな。その通りだ」


 ベリオスさんはため息交じりに笑った。


「エルドゥーク領土の東に広がる広大な森が、この大陸におけるエルフ族の自治領となっている。人間とエルフ族は長らく国交を結んでおらず、互いにかかわりをもたないように生きてきたが……魔王軍の侵攻が本格的に始まれば、それどころではない」


 その通りだ。

 きっと、エルフ族側も、それは承知しているはず。

 となると……


「エルフ族の方からアプローチがあったんですか?」

「! 読みが鋭いな。正解だよ」


 だろうな。

 エルフ族だけの戦力では、到底魔王軍には太刀打ちできない。あの森はエルフ族が持つ特殊な魔力を施した結界魔法を展開しているため、今のところは大丈夫なのだろうが、それもいつまでもつか。

 そこへきて、新たな聖剣の持ち主であるリシャール王子が、着々と戦力を蓄えつつあるのを見て、焦りを覚えたのかもしれない。



 一方、難しい顔つきをしているのがフラヴィアとシェルニだ。

 恐らく、ふたりの脳裏には、真っ先にあの子の顔が浮かんだことだろう。


 そう。

 うちの店で働くレクシーだ。

 

 御三家の一角であるハイゼルフォード家の血を引く彼女は、ワイルドエルフとのハーフである。

 ……だが、今やハイゼルフォード家とは関係が希薄となり、冒険者稼業が板についているレクシーには、あまり関係のない話かもしれない。自治領となっている森にも、知り合いはいないだろうし。


「近々、我々は正式に同盟の件を話し合うため、エルフの森を訪れようと思っている。そこで、是非君にも参加してもらいたいのだ」

「!? 俺がですか!?」


 もしかしてとは思っていたけど……まさか、本当にエルフの森へ行くことになるとは。


「君にはエルドゥークの商人代表のひとりとしてついてきてもらいたい」

「…………」


 ……本音を言わせてもらえば、すぐに答えは出そうにない。

 フラヴィアとシェルニは不安げにこちらへ視線を送っているが――俺としても、どうするべきなのか、あまりにも話が急すぎてうまく整理できていなかった。


 そんな中、ベリオスさんの話を聞いて、ひとつ気になった点がある。


「先ほど、ベリオス様は商人代表のひとりと仰いましたが……俺以外に同行する商人とは誰なんですか?」

「ああ、それなら――実は来てもらっているんだ」

「「「えっ?」」」


 俺とフラヴィアとシェルニの声が重なった。

 まさか……予定調和だったのか?

 一体どんな商人なのか――ドキドキしていると、ベリオス様は廊下へと通じる扉へ向かってパンパンと手を叩く。

 すると、ゆっくりと扉が開いていき、現れたのは、



「久しぶりだね、アルヴィン」



 恰幅のいい、初老の男性だった。

 この人は――


「キースさん!?」


 商人となった俺にとって一番の恩人であるキースさんだった。


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