第78話 砂漠の城
魔族六将のひとりである砂塵のデザンタがいるという砂漠の城。
その城には、他にはないある特徴があった。
「しかし、歩きにくいですわね……」
「本当ですね……」
その特徴に、フラヴィアとシェルニは早速嫌気がさしているようだった。
「この砂……戦闘になったら厄介だな」
この城の床には砂が敷き詰められていた。しかも、外の砂よりも柔らかく、足が深くハマってしまう。これでは行動が相当制限されてしまう。
俺たちが足元に悪戦苦闘していると、
「ギギーッ!」
行く手を阻むモンスターが現れた。
さすがに城内にはいるのか。
襲ってきたのはコウモリ型のモンスター。合計で三匹。真っ直ぐこちらに飛んできている。俺たちが砂に足を取られて身動きが取れなくなったところを狙ってきたわけだ。
「……仕方ない」
俺は魔剣を抜く。
確かに、俺たちの動きは著しく制限されている――が、向こうがこちらに突っ込んできてくれるというなら話は別だ。
「うらぁ!」
牙を向けて襲ってくる巨大コウモリをぶった斬る。
同じように、フラヴィアは魔法で、ドルーは拳で撃退する。しかし、なんだか味気ないというか……いくらなんでも単調すぎる気がする。
――そんな俺の考えはすぐに覆された。
「「「「「ギギーッ!」」」」」
第二陣が襲ってきた。
その数――ザッと見積もって三十匹。
「な、なんか、凄くたくさん来たんだけど!?」
「さすがに、あれをすべて捌くのは骨じゃな」
レクシーとドルーは、その数に対してうんざりしたように言った。
「数が多いなら……威力をあげるだけだ」
いつもの通り、俺は魔剣へと魔力を込める。
だが、今回はここからがちょっと違う。
「えっ……アルヴィンさん?」
実力ある魔法使いのフラヴィアは感じ取ったようだ。俺が魔剣に魔力を込めるといういつもの行動をしつつ、実は微妙にいつもと違うことをしている、と。
バチバチバチ――
魔剣からはこんな音が聞こえてくる。
俺が今やろうとしているのは雷系魔法を魔剣で放つ《サンダー・ブレイド》だが、魔剣に込める魔力量が異なるのだ。
この魔力量というのは感覚的なもので、具体的にこれというボーダーを決めているわけじゃない。ただ、あえて数値でたとえるなら、いつもの《サンダー・ブレイド》が「消費魔力30」として、今は「消費魔力65」ってあたりかな。
これだけ上げれば――あれくらい、一掃できる。
「くらえっ!!」
激しい閃光と共に、魔力で生み出した雷撃が迫り来るモンスターたちを包み込み、焼き払って灰の雨を降らす。
「凄いです!」
「今までとは段違いの威力ですな!」
「ホントね!」
「し、信じられない!」
シェルニ、ドルー、レクシー、スヴェンさんはテンション上がっているが、逆にドン引きしている者もいた。
「な、なんて魔力なんですの……」
魔法使いであるフラヴィアは、威力の上げ方がおかしいと思われたようで、珍獣でも見るかのような視線を送られた。
確かに、普通じゃあんなふうに好き勝手威力の調節はできない。これもすべては魔剣のおかげ――俺の魔剣士としての本領発揮ってところか。
……ま、今は商人と兼業って形をとっているけどな。
ともかく、先ほどの一撃でコウモリ型モンスターは姿を見せなくなった。
これでゆっくりと先へ進めそうだ。
「あ、見てください! あそこに階段があります!」
コウモリの大群が去り、前進を続けていると、二階へと通じる階段をシェルニが発見する。だが、階段の一段一段にびっしりと砂が敷き詰められていることから、どうやら二階も床は砂まみれのようだ。
「相当な砂好きなんだな、砂塵のデザンタってヤツは」
「どんな人なんでしょうか……」
「シェルニさん、人ではなくて魔族ですわよ」
「あっ! そうですね!」
ツッコミが細かいなぁと思いつつ、俺たちは二階へと向かう。
そこはやっぱり一面砂まみれ。
どこまで経っても歩きづらくてかなわないな。
モンスターの襲来に注意しながら進んでいくと、
「!」
何か、声のようなものが聞こえた気がする。
しかし、周りの誰も反応を示さない。
「気のせいか……?」
どうやら、俺も少し過敏になっているようだ。
細心の注意を払いつつも、あまりそれに呑み込まれないようにしないとな。
さあ……この二階には何が待ち受けているのか……気を引き締めていくぞ。
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