第77話 進軍
夜が明けた。
「ふぅ……実に素晴らしい朝ですわ!」
日が昇り始めると、みんな徐々に目を覚ましていくが、中でもフラヴィアは絶好調だった。ベッドでしか寝たことのないお嬢様だから、「体中が痛いですわ!」っていうかと思ったけど、意外と頑丈なようだ。
「レクシー、城に何か動きはあるか?」
「特にないわ。見張りがいるわけでもないし……逆に静かすぎて不気味なくらい」
「だよなぁ……」
レクシーは違和感を抱いていた。
……それは俺も同じだ。
余裕の表れと言ってしまえばそれまでだが、それにしたって……どうにも解せないな、あの無防備さは。
「普通に考えたら、誘い込んでいるとしか思えないよな」
「わざと城内に侵入させようとしているってことですか?」
シェルニの質問に、俺は首を縦に振ることで答えた。
昨日戦った魔族の女――ケーニル。
無邪気で、戦うという行為自体を楽しんでいる節があったヤツだったが……その戦いぶりから、恐らく戦闘経験自体は少ないものと俺は読んでいた。属性魔法に対する異常なまでの耐久力を買われていたのだろう。実際、王国騎士団が切り札として用意していた魔導砲の一撃を食らってもケロッとしていたくらいだ。
まあ、あのナイジェルという男が、正しく魔導砲を扱えていたのかどうか疑問符がつくけど……それにしても、魔導砲の威力が凄まじいという点は変わらない。
ともかく、慎重を期す必要はある。
連中にとって、ケーニルの敗戦は織り込み済みかもしれないが、救世主ガナードではなく、俺たちというまったく異なった勢力による突破は想定外に違いない。
そのため、表向きは無警戒でも、中ではまったく状況かもしれなかった。
「……それにしても、ガナードは何をやっているんだ?」
未だ姿を見せない救世主パーティー。
魔族六将のひとりを相手にしようっていうなら、先陣を切ってこの場に現れてもいいくらいなのに……スヴェンさんの話では、騎士団本隊が陣取っている場にも、まだ姿を見せないという。
しかし、ガナードが逃げだすとも考えられなかった。
あいつの性格を考慮すれば、この機を逃さないわけがない。
王家や御三家へのアピールも兼ねて、必ず乗ってくるはずだ。
だが、それがヤツの本心とも限らない。
本人にヤル気はなくて、ベシデル枢機卿あたりからせっつかれて参加することになったという可能性もある。
いずれにせよ、ここにあいつが来る可能性は高い……。
城内で鉢合わせしないようにしたいところだが、それは無理っぽいかな?
「アルヴィンさん? どうかしましたの?」
「……いや、なんでもないよ」
俺の様子がおかしいと察したフラヴィアが声をかけてくれた。
適当に誤魔化したが、こんな気遣いのできる子だったんだなぁ……初対面の時とはだいぶ印象が変わったよ。
……なんて、のんびり構えている場合じゃないか。
魔族六将……思い出せば、よく師匠が話していたな。師匠が戦ったのは、今回相手にする砂塵のデザンタではなく、氷雨のシューヴァルってヤツだが、めちゃくちゃ手強かったと聞いている。
大体、師匠がバケモノじみて強かったのに、そんな師匠が苦戦する相手……今回ばかりは、俺も本気でいかないと厳しいかもな。
俺たちは周囲を警戒しながら、少しずつ砂漠の城へと近づいていく。
だが、やはりというかなんというか、城の周りにモンスターはいない。入口は正面の門のみのようだが、ここも開放されていた。
「く、くそっ! なめやがって……」
スヴェンさんは怒りで震えているが、正直、ケーニルを相手にするだけでも、相当な戦力を用意しなければならないと考えた時――魔族側の余裕の態度は当然のものだろうと俺は考える。
もちろん、油断をしてくれているなら大歓迎だ。
ガチガチに守りを固められるより、手間が省けるし。
「どうやら、騎士団はまだ到着していないみたいですわね」
辺りを見回しながら、フラヴィアが言う。
確かに、戦闘した痕跡は見られないな。
「なら、連中が来るよりも前に……魔族六将の首を落とそう」
俺はメンバーにそう呼びかけて、砂漠の城へと入っていった。
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