第76話 復活の救世主
アルヴィンたちが砂漠の城へ向かっている頃。
魔族六将のひとりである砂塵のデザンタを討伐するために集められたエルドゥーク王国騎士団の精鋭部隊。
そこに、遅れてガナード率いる救世主パーティーが集結した。
「ガナード様! よくぞおいでになられました!」
到着した途端、低姿勢でガナードに近寄ってきたのは騎士団の中でも将来を有望されるブラガという男で、彼は今回の遠征における現場の最高責任者であった。
「現状を説明してくれないか?」
そうブラガに尋ねたガナードの表情には落ち着きに満ちていた。
どこか、自信と余裕さえ感じるその言動は、ほんのつい先日まで追いつめられていた者とは到底思えなかった。
ガナードだけではない。
度重なるクエスト失敗により、立場を失いかけていた聖拳士タイタスと魔導士フェリオも同じように、アルヴィンがパーティーを抜ける前の、勝利しか知らなかった頃の顔つきに戻っていた。
――理由はひとつ。
彼らに強力な助っ人が加わったからだった。
「ねぇ、ガナード。ここ、めちゃくちゃ暑いんだけど」
その助っ人はガナードたちの背後に立ち、額に汗をためながら文句を垂れていた。
緑色の長い髪に、尖った耳が特徴のハーフエルフ。年齢は十代中頃。腰に携えた剣には派手な装飾が施されており、その立ち振る舞いからは気品さを感じるが、少しだけ吊り上がった目元が気の強さを感じさせる。
「待っていろ、リュドミーラ。すぐに冷たい飲み物でも用意させる」
「今すぐ欲しいんだけど?」
「なら、この水筒で――」
「え~? 水を飲めっていうの? あり得ないんだけど!」
ヒステリックに叫びながら、リュドミーラは不満をぶちまける。
「やれやれ……あれが本当に御三家の一角を担うハイゼルフォード家の令嬢なのか?」
「そうらしいわよ」
タイタスとフェリオはため息交じりにそんな話をする。
そう。
今、救世主ガナードに対しても遠慮なく不満をぶちまけているのが、御三家令嬢最後のひとり――リュドミーラ・ハイゼルフォードだった。
ガナードの悪評を耳にしたオーレンライトとレイネスの両家が、娘との婚約に対して少し及び腰になっているところを逆にチャンスだと捉え、積極的に娘のリュドミーラを売り込んだのだ。
もし、ガナードとリュドミーラが結婚をすれば、自分は救世主の義理の父となる。これは最高のステータスだと、現ハイゼルフォード家の当主は考えたのだ。
そのリュドミーラは、剣術の天才だった。
オーレンライト家のフラヴィアが魔法使い。
レイネス家のザラが精霊使い。
両家の令嬢がそれぞれある分野に突出した才能を見せているように、リュドミーラの剣術は他を圧倒していた。
彼女の参戦は、窮地に追い込まれていたガナードたち救世主パーティーにとってまさに救いの手となった。さらに、資金面などは全面的にハイゼルフォード家が負担するという申し出もあり、ガナードたちはそれに飛びついたのだ。
リュドミーラは性格に多少難があったものの、戦闘は率先して参加し、片っ端から斬り捨てていくというお嬢様とは思えない乱暴な戦い方を得意としていた。
そんなリュドミーラは用意された果実ジュースを飲み干すと、そのままテントで寝入ってしまった。
このような振る舞いがパーティー内で認められているのも、ここまでたどり着く間に彼女が残した功績による影響が強い。救世主パーティーは、リュドミーラなくしてはいられないところまで堕ちていたのだ。
ガナードはリュドミーラの加入を受けて、「ようやく自分に風が吹いてきた」と考えるようになり、自信を取り戻したのだ。
さらに、ガナードにとって嬉しい報告が続く。
「実は先ほど入ったばかりの情報ですが……敵がこの近くに造っていた砦が完全に崩壊をしたようです」
「何? どういうことだ?」
「一応、斥候兵を向かわせていましたが、彼らがやったとは思えません。恐らく、向こうで同士討ちでも起きたのでしょう」
「くくく、そうか……やはり俺に風は吹いているようだな」
敵が仲間割れを起こしてくれたとはなんて都合がいい展開だ。
ガナードはニッと笑い、その場にいた全員の耳に渡るよう叫んだ。
「諸君! よく聞け! 俺たちは明朝、砂漠の城へと向かって出陣する! そして、この俺が必ずや砂塵のデザンタの首を持ち帰ろう!」
一気にテンションが上がる王国騎士団。
ガナードの野望を叶えるための戦い――砂漠の城決戦はすぐそこまで迫っていた。
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