第75話 夜の一幕

 砂塵のデザンタがいるという砂漠の城には、スヴェンさんが案内してくれることになった。

砦からはそれほど距離はなく、俺たちはその城を見渡せる大きな岩に身を隠しながら様子を探った。


 周囲を警戒するが、トラップらしいものは見られない。砦の周囲を守っていた、あの地中鮫のような門番役もいないようだ。


「随分と不用心というか……」

「自信の表れですわね」


 フラヴィアの言う通りだろう。 

 人間ごときに負けはしない――そういった、デザンタの圧倒的な自信が垣間見える城の防衛レベルだった。

 来るもの拒まず。 

 むしろ、「入れるものなら入ってみろ!」みたいな感じさえする。


「アルヴィン殿……」

「分かっているよ、ドルー……全員、警戒を怠るな」


 メンバーにそう呼びかけた後、俺はスヴェンさんへと向き直る。


「ここまでありがとうございました、スヴェンさん。あとは俺たちがやりますよ」

「…………」


 ここから先は超危険地帯。

 スヴェンさんには戻ってもらい、他の強制的に連れてこられた人たちと一緒に待機をしていてもらいたい。

 ――そう思ったが、


「ま、待ってくれ……俺も連れていってくれ」


 スヴェンさんは俺たちと戦う道を選んだ。


「お、俺も戦える! 君たちほどではないが、役に立つはずだ!」

「スヴェンさん……」

「騎士団に入ってから、俺はずっと門番だった……前線に立つことのない、落ちこぼれだが……それでも、この場を君たちだけに任せて去るなんて……」


 騎士としての矜持が、スヴェンさんを突き動かしていた。

 ……涙ながらにそう訴えられたら、無下に断るわけにもいかない。


「行きましょう、スヴェンさん」

「っ! ありがとう、アルヴィン」


 こうして、新しい仲間がひとり加わった――が、この日はすでに夜が近づいているということもあり、砦近くの岩陰で休むことに。




「思えば、このパーティーで夜を過ごすっていうのは初めてだな」


 岩陰に隠れ、月明かりを頼りに夕食をとる。

 非常食として持っていた干し肉とパンをみんなで分けて食したのだが……正直、超絶お嬢様であるフラヴィアは、「オーレンライト家の令嬢であるわたくしが、このような貧乏人料理の代表格みたいなものを口になんてできませんわ!」くらい言うと思ったが、


「おいしいですわ!!」


 意外と口に合ったようで何よりだ。


「そういえば、フラヴィア……家の方は大丈夫なのか?」

「大丈夫、というのは?」

「いや、さすがに一日お屋敷に戻らないというのはマズいんじゃないかな、と」

「これもまた社会経験の一環ですわ」


 普通のお嬢様は社会経験の一環で魔王軍の幹部と戦ったりしないと思うが……まあ、戦力的にもフラヴィアの存在は大きいので、いてもらうと助かるけど。


 食事以外にも、風呂はないしベッドもない。

 だが、フラヴィアはそういった冒険者としての生活を楽しんでいるようだった。


「あの、アルヴィンさん……わたくし、臭いませんか?」

「まったくもって大丈夫だよ」


 一応、そういうところは気になるのか……。


「地面に寝転がって寝るなんて生まれて初めてですわ!」


 布を地面に置いただけの、寝具とは到底呼べない代物に大喜びのフラヴィア。ここでの経験のすべてが、お嬢様にとっては初体験となるものばかりだった。


「やれやれ、あんなにはしゃいじゃって」


 一方、武器の手入れをしているレクシーは、そんなテンションの高いお嬢様を微笑ましく眺めていた。

 

「武器の調子はどうだ?」

「絶好調! ――って、言いたいところだけど、今日はほとんど披露できていないのよねぇ。明日のお城攻略の際には派手に暴れてやるわ」

「期待しているよ」

「アルヴィン殿! 吾輩も暴れますぞ!」

「私はみんなを守ります!」

「俺も全力で戦うぜ!」


 ドルー、シェルニ、スヴェンさんも気合満点。

 パーティーの士気は最高の状態だ。


 こうして、砂漠での夜は更けていき――いよいよ決戦の朝を迎えた。

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