第74話 勝負あり
「何を……したの……?」
動きが鈍くなり、さらに苦しそうな表情を浮かべるケーニル。
俺が使った魔法――それは、あの新しいダンジョンで戦った、カメ型のモンスターに使った魔法と同じだ。
重力操作。
動きを封じるため、ケーニル周辺の重力を操作し、その動きを封じたのだ。
同時に、俺は自分の立てた仮説が間違っていなかったと安堵する。
ケーニルの持つ異常なまでの魔法耐性――だが、それはあくまでも属性付き魔法に限られたことだった。魔力によって生み出された風や雷には圧倒的な耐久力を見せ、弾き飛ばすのだが、無属性魔法による攻撃は防ぎきれない。
……この読みは正解だったな。
「くっ……」
動きを封じられたケーニルだが、まだ動こうとしている――そして、実際に少しずつその束縛は薄れていっているようだ。
敵ながら、たいしたヤツだ。
たぶん、ガナードにそんな根性はないだろうな。
なんて、呑気に構えている場合じゃない。
俺は再び魔剣を構えた。
思ったよりも早く復帰してきそうなので――その前にトドメを刺す。
「フィジカル・ブレード」
これもまた無属性魔法。
能力は一定時間、俺の筋力や運動などの身体能力を向上させることができる。
「魔法攻撃への耐性が強いことはよく分かった――こいつはどうかな?」
「!?」
俺は、「斬る」という「ぶっ叩く」という感覚で剣を振るった。ケーニルは回避できないと悟り、防御魔法を展開したようだが、普段あまり使い慣れていないせいか、不十分なものだった。魔法の効果で筋力が大幅にアップしている俺の全力の一撃を受けて、砦の壁を突き破り、壁に強く叩きつけられる。
魔導砲の影響もあり、ボロボロになっていた砦は、ケーニルが突っ込んできた衝撃でついに限界を突破。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「ふぅ……こんなものか」
俺は魔剣を鞘へしまうと、深く息を吐いて仲間たちへと向き直る。
「やりましたな、アルヴィン殿!」
「さすがです! アルヴィン様!」
「見事なお手並みですわね」
「相変わらず人間離れしているわねぇ……」
四人に迎え入れら、俺はなんだか照れ臭くなる。
……思えば、ガナードたち救世主パーティーにいた頃は、こんなふうに労われることなんてなかったからな。魔剣を自由に扱えなかったから、戦闘で役に立つことなんてほとんどなかったし、その点は仕方のないことなんだけど……今じゃ当たり前になっているからなぁ。ちょっと前なら信じられない光景だ。
「アルヴィンさん!」
俺たちが勝利を喜び合っていると、そこへスヴェンさんたちが駆けつけた。先ほどの魔導砲の轟音を聞き、心配になって様子を見に来たらしい。
「うおおっ!? あ、あの砦が!?」
スヴェンさんたちは、崩壊した砦を見て唖然としていた。
近づくことすらままならなかった場所が見る影もなくボロボロとなっているのだから無理もない。
「ア、アルヴィンさんたちがこれを?」
「厳密に言えば、やったのはアルヴィンさんだけですわ」
「えぇっ!?」
フラヴィアの訂正に、スヴェンは腰を抜かして驚いていた。
「ま、魔族の砦をひとりで……まるで救世主様のような力だ……」
「低く見てもらっては困りますわ。アルヴィンさんは救世主ガナードよりもずっとお強いですのよ」
そう言って、なぜか自慢げに高笑いのフラヴィア。
あんまり持ち上げてもらいたくはないが、正直なところ、ガナードに劣っていると言われるよりかは千倍マシだ。
「でも、この砦が破壊されたとなったら……いよいよ騎士団の本隊が動きだしますよ!」
スヴェンさんの言葉に俺はハッとなる。
その本隊には間違いなくガナードがいるだろう。
鉢合わせとなる前に、ここらで撤退した方がよさそうだ。
「俺たちはお役御免のようだから、そろそろ戻るとしようか」
「ま、待ってください! あなたはデザンタ討伐に行かないのですか!」
すっかり敬語になっているスヴェンさん。
……て、言われてもなぁ。
今の俺はあくまでも商人。
魔族六将の討伐は、専門家であるガナードやタイタスたちにお任せしたい。俺の代わりに有能な新入りも加入したみたいだし。
「お願いします、アルヴィンさん!」
「…………」
スヴェンさんだけでなく、多くの騎士たち(といっても、強制的に連れてこられた元農民や商人ばかりだが)からの必死の説得が、俺の心を揺らす。
ガナードと鉢合わせにならないよう、こちらが独自に動けば問題なくデザンタのいる砂漠の城へ潜入できるかもしれない。
シェルニたちも、俺の判断に従うと言っている――が、その顔つきは戦う気満々といった感じだ。
「……やるか」
今の状況をこのまま放っておくわけにもいかない。
少しでも被害を減らすために……魔族六将・砂塵のデザンタの首をいただくとしようかな。
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