第46話 調査
ダンジョン内に存在する、太陽の光が降り注ぐ開けた空間。
その幻想的な景色に圧倒されつつも、俺たちは周囲に何か珍しい物はないか探索を開始した。
ダンジョン内の地面には苔が生えており、それまで平坦だった道とは異なって、中心部の一枚岩周辺は特にデコボコとしていて歩きづらい。また、ここにたどり着くまで、モンスターの姿は一切見えず、それどころか生物らしき影さえ確認できなかった。
俺たちはまず全体像を把握するため、一枚岩へと向かい、それを登って高地からダンジョン内を見回した。
「奥の方には、まだ別の道があるようだな」
「あの先には何があるんじゃろうな」
「気になりますね!」
好奇心で双眸を輝かせるふたり。
だが、さすがに今日はそこまで行くつもりはない。
「今日はとりあえずこの近辺の調査だけにとどめておこう」
「「了解!!」」
俺からの指示に敬礼で応えるふたり。……なんていうか、息が合ってきたな。
そんなことを考えつつ、周囲をゆっくりと見て回る。
天井から入り込む光の柱に照らされた一枚岩は温かく、周囲には苔の他に小さな花が咲いていた。
「なんというか……このまま寝そべりたいな」
「それは名案ですな!」
俺が何気なく呟いた言葉を真に受けたドルーはその場にゴロンと寝転がった。それを見たシェルニもマネをして寝転がる。
「おいおい、背中が汚れるぞ」
「いやしかし……これは実に心地いい」
「ですねぇ……」
目を細め、とても気持ちよさそうなふたりを見てしまっては……俺もやらざるを得ないだろう。
「どれどれ」
ふたりのマネをして、俺も苔の上で横になる。視線の先にはわずかに開いたダンジョンの天井が見えた。背中にはそこから漏れ入る光に照らされた岩肌が当たる。なるほど……この温かさは癖になるな。
「たまにはこうしてのんびりするのもいいですよねぇ……」
「吾輩もシェルニ殿の意見に賛成じゃ」
「ああ……――って、そうじゃない!」
危うく寝落ちするところだった。
ダンジョンのど真ん中で昼寝とか、迂闊にも程がある。
俺はふたりを起こして調査を再開――も、やはり目ぼしい物は発見できず。
「まだ序盤とはいえ、収穫ゼロとはなぁ……」
「手土産のひとつでも持ち帰らなければ、店を開けられぬ」
ドルーの言う通りだ。いくらギャラが出るからって、さすがに手ぶらっていうのはいただけない。
「……だからといって、これ以上潜るのはなぁ」
「あっ!」
俺が悩んでいると、シェルニが何かを発見したようで、ある場所を指差して叫んだ。そこには、草花が絡まっている宝箱があった。
「こ、こんなところに……さっきまでどうして気づかなかったんだ?」
「さ、さあ……」
俺とドルーは困惑しつつも、宝箱へ近づいていく――と、わずかに宝箱が動いた。次の瞬間、
「っ! ドルー! 離れろ!」
「えっ!? ――うおっ!?」
宝箱の正体に気づいた俺はドルーへすぐさまその場から引くよう叫ぶ。それを聞いたドルーは後方へ飛び退いた。その直後、地中から巨大な顔がせり上がり、俺たちを睨みつける。
「こいつは――カメか」
甲羅に宝箱をくっつけた巨大なカメ。その口元には、カメらしからぬ鋭い牙が覗き見えている。なるほど……宝箱を見つけると人間が寄ってくることを知っているから、あんな仕掛けを用意していたのか。差し詰め、あの宝箱は疑似餌ってわけだ。
「アルヴィン様!」
「大丈夫だ、シェルニ。問題ない」
魔剣を抜き、モンスターと対峙する。
「ブオオォォオ!!」
激しく鼻息をまき散らしながら突っ込んでくるカメ型モンスター。巨体に加えてあの分厚い甲羅……魔法による攻撃は効果が薄そうだ。
「ならば――」
俺は魔剣へ魔力を込める。
「グラビティ・ブレイド!」
魔力消費量が高いため、滅多に使わないレア技だ。魔剣の先に黒い球体が現れ、それをモンスター目がけて放つ。小さなその球は、当たったくらいじゃかすり傷さえ負わせられないが――効果が発揮されるのはここからだ。
「沈め」
俺はさらに魔剣へと魔力を込める。
すると、モンスターの巨体は凄まじい勢いで地面にめり込んだ。
「!? な、何が……」
「どうなっているんですか……?」
驚くドルーとシェルニ。
「空間魔法の応用――とでも言えば分かりやすいかな」
一定時間が経つまで、あのモンスター周辺の重力は大幅に変化している。そのうち、苦しさで動けなくなるだろう。
「さて、モンスターは倒したが……あいつ以外はここにいないようだな」
「まったく生息していないわけではなさそうですが……数自体は少なそうですね」
シェルニの指摘通り、まだ奥があるとはいえ、正直、期待外れ感は否めない。
ただ、まだこのダンジョンには何かが隠されているという予感も同時に持っていた。
ここはもうしばらく調査するべきだな。
ザイケルさんにはそのように報告をしておこう。
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