第50話 レイネス家のお嬢様
護衛兵団のリーダーを務めるクリートさんは、俺たちにこれまでの経緯を簡単に説明した。
なんでも、三日ほど前からエルドゥーク王都に滞在しており、今日の朝から屋敷へ戻る予定になっていた。ところが、ザラの両親――つまり、レイネス家当主と夫人は直前で用が入り、娘のザラだけが先に屋敷へ戻ることになっていたという。
「そこを狙われたってわけですね」
「うむ。なんとも、タイミングの悪い……」
クリートさんは大きく息を吐いた。
護衛兵士として、主を守り切れなかったことを悔いているようだ。俺たちが偶然通りかからなかったら、ザラはどうなっていたか……。
そのザラはすっかり元気になっていた。
これはシェルニが尽力してくれたおかげだ。怖い目に遭って精神不安定状態だったザラを励まし、なんとか立ち直らせた。
それにしても……成長したな、シェルニ。
最初の頃は、それこそさっきまでのザラみたいな状況だったが、今では年下のザラを励まして元気づけることができるなんて。
シェルニの成長ぶりに感動しつつ、クリートさんへこの後どうするのか尋ねた。
クリートさんは頭を抱えながらも、馬車は襲撃を受けてほぼ全壊な上に、肝心の馬が逃げだしてしまったため、屋敷へ戻るのが困難になってしまったと、絞り出すような声で俺に伝えた。
「馬車と馬なら、なんとかなりますよ」
「何っ!? 本当か!?」
グイッと迫るクリートさんの顔。
ちょうどその時、
「アルヴィン殿~!」
ドルーが援軍を率いて戻ってきた。
やってきたのはザイケルさん本人と数人の自警団員。俺は早速事情説明し、馬車と馬を手配できないかとザイケルさんに相談する。すると、ふたつ返事で「OK」が出され、すぐさま用意してくれることとなった。
「君はあのザイケル殿と知り合いだったのか」
「クリート護衛団長……こっちにいるアルヴィンって男は元救世主パーティーの一員ですよ?」
「なんと!? あの救世主パーティーの……」
「救世主パーティーは彼がいて初めて成立していたと評して過言ではないほど、彼は貢献していましたよ。戦闘もこなせる魔剣使いの商人――本当に、どうして救世主ガナードが彼をパーティーから手放したのか、私には理解しかねますな」
ザイケルさんは俺をクリートさんへそのように紹介。それを受けたクリートさんは「そんな凄い御方だったとは」と口を開けながら見つめている。
ただ、その表情はすぐに曇り始めた。
「救世主ガナード様が……」
「? ガナードを知っているのか?」
「あ、い、いえ、実は――」
少し言いにくそうにしながらも、クリートさんは俺に衝撃的な事実を打ち明けてくれた。
「あの子がガナードの婚約者!?」
思わず叫んでしまった。
その声はシェルニやドルーにも届き、ふたりは顔を見合わせて「えぇ……」と戸惑った反応を見せている。
そりゃあそうだろう……聞くところによると、ザラは今十一歳だという。ガナードとは十歳以上も年が離れている――いや、それ以前に、十一歳の子どもと婚約って……ガナードのヤツめ、何を考えているんだ?
「……っ! まさか――」
ガナード……あいつの狙いはレイネス家の名か?
バックに御三家がついていることで、これまで以上に威張り散らせる――なんとも浅薄な思考だが、実にあいつらしい。
どうやら、クリートさんはザイケルさんの話を聞いて、救世主ガナードに不信感を抱いたようだ。
その後、ザイケルさんが用意した馬車と馬が届き、屋敷へ戻る準備が整った――が、負傷者が多く、しかも徐々に夜の闇が辺りを覆い初めていたということもあり、今日のところはダビンクで一夜を明かすことで決定した。
安全のため、俺やザイケルさんも護衛につき、町で一番の高級宿屋へ案内しようとしたのだが、
「あ、あの……」
おずおずと挙手をするザラ。
「どうかしたかい?」
「私――アルヴィンさんのお家に泊まってみたいです」
ザラは無邪気な口調でとんでもないことを言い放った。
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