第160話 アイアレンの秘密

 これまでのふたりとは明らかに違う鉄塊のアイアレンを相手に、俺たちは苦戦を強いられていた。

 

「所詮人間などこの程度のものよ――むん!」


 アイアレンが力むと、その両手に巨大な岩石が現れる。それを、ヤツはこちらへ向かって放った。


「こんなものでわたくしたちが怯むと思って!」


 フラヴィアは勇ましく言い放ち、魔法で巨岩を砕く。


「オーレンライト家の令嬢におくれをとってはならんぞ! 続けぇ!」

「「「「「うおおおおおおお!!!!!」」」」」


 このフラヴィアの行動に触発された騎士たちは、雄叫びをあげて突進。

 だが、


「失せろ」


 軽く一蹴。

 さらに、アイアレンの猛攻は止まない。


「ぬおおお!」


 アイアレンが拳を地面へと突き立てると、大きな横揺れが発生――地震だ。それが原因で、鉱山の一部が崩落していく。


「ぐっ!」


 俺たちは崩落にも注意を払わなければいけなくなった。

 これにより、敵の動きの察知が一歩も二歩も遅れる。

 痛いロスだ。


 このアイアレンという魔人族……同じ魔族六将であるデザンタやレティルよりもずっと戦闘巧者だ。

 

 ――ただ、少し納得のいかない点がある。

 それは相手の魔力量だ。


「やあ!」

「この!」

「効かぬわ!」


 ケーニルとレクシーの攻撃を同時に捌きながら、魔力の錬成も怠らない。

 問題はその魔力がどこから来るのかという点。


 最初にこのアイアレンと対峙した時に俺が抱いた印象は――魔力量が少ないというものだった。その量は、自分たちの魔力で居城を造っていたデザンタとレティルに比べ、元からあった鉱山を居城にしようとしているその規模の違いからも分かる。


 だが、実際に戦闘をしてみると、その魔力量は無尽蔵。

 次から次へ、高度な魔法攻撃を繰り返すアイアレンに、俺たちは防戦一方で致命的なダメージを与えるに至っていない。


 ――どこかにカラクリがあるはずだ。


 純粋な魔力量で劣るアイアレンが、なぜここまでの強さを発揮できているのか。


「アルヴィン! 大丈夫!」


 考え込んでいると、ケーニルが慌てたように話しかけてきた。


「気をつけないと岩石が飛んでくるよ!」

「あ、ああ、すまない。戦闘中にボーっとするものじゃないよな」

「気をつけてね。……それより、アイアレンの戦い方って、デザンタが言った通りだね」

「えっ?」


 元魔族六将のひとりである砂塵のデザンタの部下だった経験のあるケーニル。どうやらその元上司からアイアレンについて何か聞いているようだ。


「ケーニル、デザンタはどういう戦い方をするって言っていたんだ?」

「とにかく動かないって」

「動かない?」

「うん。だから、デザンタは《不動のアイアレン》って呼んでたよ」

「不動……」


 言われて、ハッとなる。

 確かに、アイアレンは最初に遭遇した場所からあまり動いていない。


「どういうことだ……?」


 恐らく、デザンタは揶揄するという意味で不動なんて呼んでいたのだろう。そこに、アイアレン攻略のヒントが隠されているはずだ。


「……うん?」


 そこで、俺はあることに気がつく。

 これまで、すべての神経をアイアレンへと向けていたが、注意を少し周りに向けることである事実に気がついたのだ。


 あちこちに魔力が散見される。

 それも、この場にいる者たちのものではない魔力――じゃあ、あれはいったい誰のものなんだ?


 そう思った時、俺の脳裏に浮かんだのは銅像にされた人々だった。


「!? ま、まさか……」


 アイアレンが人々を銅像にした目的――ただ単に倒すということ以外にも、そうした理由があったのかもしれない。


「試してみるか……!」

「えっ? 何か分かったの?」

「ああ。ケーニルのおかげでな!」


 俺は気合を入れ直し、魔剣を構えた。

 さあ、反撃開始と行こうか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る