第211話 想定外の事態

 お宝ダンジョン(予定)を探索中に遭遇した謎の人影。

 ザイケルさんは接触を試みたが、それを阻んだのは魔人族ケーニルのひと言だった。おまけに顔色も悪いし……何があったんだ?


「声をかけない方がいいって……なぜそう思う?」


 尋常じゃないケーニルの様子に、ザイケルさんは制止した理由を尋ねた。


「あっ、その……うまくは言えないんだけど……あの人はたぶん――私と同じだと思うから」

「わ、私と同じって……魔人族ってことなのか!?」

「う、うん……」


 俺たちの間に戦慄が走る。


「ここ最近、やけに大人しいと思っていたら……こんなところに隠れていやがったのか」

「だとしたら、あの数々のお宝アイテムは俺たち人間をここへ集めるための撒き餌だったってことでしょうか」

「どうだろうなぁ……」

 

 判断に困っているザイケルさん。

 ……だが、もし本当に魔王軍がこのダンジョンをつくり、そこへ人間を連れ込もうとわざとお宝をばら撒いているのだとしたら――それはかえって遠回りな方法ではないだろうか。


 魔族六将はあと三人残っている。


 しかも、最近では「いなくなった三人を新たに補充している。その準備のため、魔王軍の動きは一時的に大人しくなっている」なんて意見を新聞で目にした。


 まあ、魔界の事情なんてこっち側の人間は誰も分からない。元魔王軍のケーニルを仲間にしている俺だって分からないし、なんだったらケーニル自身もよく分かっていない。


 ――ただ、そういえば、


「……以前、ダビンク近くのダンジョンに魔族六将が出ましたよね」

「! あの植物女か」


 ザイケルさんの言う植物女とは、魔族六将のひとりである深緑のレティルだ。

 レティルは俺たちが撃破したけど……もしかして、再びここへ魔族六将が攻めてきたとは考えられないだろうか。

 

 もしそうなれば、一体誰が……。


 師匠と激闘を繰り広げたという氷雨のシューヴァルか。

 あるいは、残ったふたりのうちのどちらか。


 いずれにせよ――確認をする必要はありそうだ。


「ザイケルさん」

「どうした、アルヴィン」

「俺とケーニルでもう少し近づいてみます。何か分かるかもしれませんし」

「だ、大丈夫か?」

「問題ないですよ。――なぁ、ケーニル」

「う、うん」


 ケーニルは自信なさげ――というより、どこか困惑しているようにさえ思えるが、彼女が行動を共にしてくれなければ、危険を顧みず接近する意味がない。元魔王軍であるケーニルなら、あそこにいる魔人族が何者であるか知っているかもしれないし、そこから敵の狙いが浮き彫りとなる可能性だってある。


「気をつけてね、ふたりとも」

「ああ」


 不安そうなレクシーに見送られて、俺とケーニルはこっそりと岩陰に姿を隠しながら進んでいく。もうちょっと進むと、完全に隠れる場所がなくなってしまうため、なんとかこの距離で相手を確認するしかない。


 その時、思いもよらぬ事態が起きる。


「!? だ、誰か来たぞ」


 俺たちがマークしていた人影に接近する別の人影。

 ケーニルに確認すると、やはりこちらも魔人族らしい。

 おまけにこっちは三人もいて、合計で四人となっていた。


 さらに、この四人は俺たちの見ている前で思わぬ行動を起こす。

 なんと、最初にいたひとりへ後から来た三人が攻撃を仕掛けたのだ。


「ど、どうなっているんだ……仲間割れか……」

「わ、分かんない……」


 いまひとつ掴み切れない現状を把握すべく、俺たちはさらに接近を試みたのだった。

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