第210話 謎多きダンジョン

 簡単に攻略できて、尚且つ高価なお宝がゲットできる。

 そんな夢のようなダンジョンが発見された――が、どうにもキナ臭い。


 というわけで、俺たちはザイケルさんと調査隊に同行し、ダンジョン内部の様子を探ることにした。

ザイケルさんの話では、ある程度の距離まではランプを設置して明るくしてあるとのことだったので、序盤は安心して進めた。


 しばらく行くと、現在ザイケルさんたちが踏み入れているダンジョン最深部に到着。入口から歩いて十五分ほどだが、まだまだ先は長そうだ。


「変わったことはないか?」

「いえ、特には」


 現場を任されている冒険者のひとりが、異常なしを報告。

 ……確かに、ここまでで目立った以上は確認できない。

 モンスターも出たには出たが、初心者でも倒せる雑魚ばかり。


 このままいくと――本当にここは大当たりダンジョンってことになるな。


「今日はアルヴィンも来てくれたし、もう少し奥へ進んでみようと思う」


 その指示を耳にした冒険者たちは盛り上がる。

 百戦錬磨のベテランが多い彼らも、ザイケルさんと同じく慎重にことを運ばなければいけないという気持ちがある反面、さらに奥へ進みたいという好奇心と葛藤していたのだろう。


 ともかく、このダンジョンが本物のお宝ダンジョンかどうか、それを見極めるためにもさらに奥へと進むことに。


 俺たち以外に人間はいないダンジョン。

 ピチョン、という水滴の音が響き渡る中、静かに、慎重に前進していく。


「足場も安定していますし、ここまではトラップもありませんね」


 ネモの言う通りだ。

 正直言って、ここまではいい意味で予想を裏切られている。

 ――だが、うまくいっている時こそ、より入念に周囲へ気を配らなくてはならない。目に見えて危険な状況よりも厄介だ。


「さすがにここまで来ると、ちょっと蒸し暑いわね」

「ふむ。気温の上昇がみられる、と」


 額から汗を流すレクシーの言葉を受けて、ザイケルさんはメモを取る。

 さらに進むと、今度は視覚から入る情報に大きな変化が。


「!? な、なんだ、ここは……」


 先頭を行くザイケルさんは驚愕し、声を震わせる。

 そして、俺たちもその光景に言葉を失った。


 広い。

 

 先が見えないくらい広大な空間が広がっていたのだ。


「な、何なのよ、この空間は……」

「ほえ~……」


 レクシーとケーニルは呆然としながらその異様な空間を見つめていた。


「不自然といえば不自然だ。まるで意図的にこうなるよう整地されたような……」


 ザイケルさんの言う通り、自然にできたものとは思えない。

ドルーと出会った古代遺跡の類なのか。


 しばらくその謎の空間を眺めていた俺たちだったが、


「あ、あれ?」


 同行していたひとりの冒険者が、何かを発見した。


「ザ、ザイケルさん……」

「なんだ?」

「あ、あそこに人が……」

「なんだと!?」


 冒険者の指差す先――かなり遠いが、確かに人型をした影のようなものが動いているように見える。


「もしかして、どこかのダンジョンとつながっているのかも……接触して、情報を集めてみますか?」

「そうだな。よし、とりあえず声をかけてみよう」


 ネモからの提案を受けたザイケルさんはその人影に声をかけようとしたが、


「ま、待って!」


 大声でそれを制止したのは――ケーニルだった。


「こ、声をかけない方がいい、かも……」


 いつも明るいケーニルだが、この時はひどく顔色が悪かった。

 一体、何に気づいたっていうんだ?

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