第268話 決断

 新生救世主パーティー。

 そのリーダーを務めるリシャール王子から、俺は誘いを受けた。

 商人として、彼らをサポートする役目を担うとのことだったが……俺の返事は――


「お断りします」


 NOだった。

 やはり……この王子はどこか信用できない。

 底が見えない翡翠の双眸――それは、果たして何を見据えているのか。リシャール王子からは、本当の感情や心境が読み取れない、異様な気配を感じるのだ。

 相手を信用して戦えない以上、たどる末路はガナードたちと同じだろう。

 いずれ歪みが生じ、それは取り返しのつかないところまで広がる。

 そんな未来が想像できたから、俺は断ったのだ。

 それに対し、


「そうか。それは残念だよ」


 リシャール王子は随分と呆気なく引き下がった。


「魔族六将を倒した経験のある君がいてくれたら、商人兼剣士として活躍できると思っていたが……嫌だというなら無理強いはしない」

「そ、そうですか」


 ……妙に自信があるな。

 そりゃあ、聖剣を装備できれば魔人族相手を相手にしても優位に戦いを進めることができるが――ガナードの例もある。

 あいつは、ある日突然聖剣が力を失ったと言った。

 詳細な原因は結局最後まで分からずじまいだったが……恐らく、ヤツの普段の態度が関係していると思われる。まあ、嫌気をさされたって感じだったな。


 だが、リシャール王子は曲がりなりにも現役の王子……バレットのように極端な態度を取ったりはしないだろうから、聖剣も力を失わずにいられるってことか。


 その点をリシャール王子は押さえているのだろう。

 だから、あれだけ自信満々でいられるのだ。


「君の他にも何人か商人の候補はいる。彼らに声をかけてみるとするよ」

「は、はあ……」

「わざわざここまで足を運んでもらってすまなかったね。君はのんびりとお家で朗報を待つといい。じゃあ、僕は公務があるから、この辺で失礼するよ」


 リシャール王子はそう言って席を立ち、リュドミーラとハリエッタを連れて部屋をそそくさと出ていった。


「アルヴィンくん」


 部屋に残っていたジェバルト騎士団長が声をかけてくる。


「城門まで送ろう」

「……ありがとうございます」


 どうやら、お役御免らしい。

 ジェバルト騎士団長と肩を並べながら、俺は城門を目指した。

 その途中、


「よかったのかい?」


 不意に、ジェバルト騎士団長がそう尋ねてきた。


「よかった、というのは?」

「救世主パーティー入りを断って、という意味さ。リシャール王子はガナードとは違う。あの御方ならば、必ずや魔王討伐を実現してくださるはずだ」

「…………」


 その言葉に、俺は返事を送れなかった。

 ジェバルト騎士団長も、俺の反応を見て察してくれたらしく、それ以上は何も言わなかった。

 そして、城門へとたどり着く。


「では、俺はこれで失礼します」

「ああ。気をつけて」

「ジェバルト騎士団長の方こそ、魔王討伐……どうか、お気をつけて」

「ありがとう、アルヴィンくん」


 それから、どちらともなく手を出し、固く握手を交わした。

 



「魔王討伐、か……」


 帰路の道中、俺はボソッと呟く。

 それが叶えば、誰もが平和に暮らせる世界が訪れるだろう。きっと、ケーニルだって今以上に自由の身となるはずだ。

 問題はそれを実現できるか、だが――


「うん?」


 店の近くまで行くと、まずレクシーが目に入った。

 そして、その横には何やらひとりの男性が熱心にレクシーへと話しかけている。

 もしかして……ナンパ?


「やれやれ」


 俺は肩をすくめると、事情を聞くため足早に店先へと向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る