第269話 志願者

 リシャール王子から救世主パーティー入りを勧められたが、俺はそれを断り、これからも商人として生きる道を選択した。


 まあ、俺みたいなしがない商人がひとりいなくたって、うまくやっていくだろう。リシャール王子の呼びかけで、各国から戦力が集まりつつあるようだし、ガナードよりかはうまく聖剣を扱えるはずだ。


 と、いうわけで、ダビンクにある自分の店に戻ってきたのだが……店先でレクシーと男がもめている現場に遭遇。

 このままではいけないと駆け寄ってみたら、


「お願いします!!」


 男は腰を直角に曲げ、レクシーへと頭を下げていた。

 なんて熱烈なラブコール――じゃなくて、


「あ、あの、何かあったのか?」

「アルヴィン!」


 困り果てた顔をしていたレクシーが、俺のもとへと駆け寄ってくる。


「ちょうどいいところに!」

「言い寄られていたのか?」

「ち、違うわよ!」


 どうやら、ナンパの類ではないらしい。

 というと、一体何の用だ?


「アルヴィン? では、あなたがあの有名な魔剣使いの商人!」


 顔を上げた男は、満面の笑みで俺との距離を詰める。……近いな。

 外見から推定される年齢は俺と同じで二十代前半くらい。

 金髪に青い瞳。

 そして端正な顔立ちと来ている。


「お会いできて光栄ですよ! あっ、私はジャックという者です! 以後、お見知りおきを!」

「あ、ああ、どうも……で、今日はうちで買い物を?」

「いえ! 違います!」


 男は急に背筋をピンと伸ばし、再び頭を下げた。やっぱり腰は直角に曲がっている。


「俺をこの店で働かせてください!」

「……えっ?」

 

 働きたいって……まさかの就職希望?

 これはちょっと想定していなかった事態だな。


「さっきからこればっかりなのよ……どうする?」


 どうやら、レクシーにも同じように迫っていたらしい。あのノリで来られたら、そりゃたまったものじゃないよなぁ。

 でも、情熱はあるし、真面目そうな第一印象……うん。だったら、


「まあ、店に入ってよ」

「! 雇ってくれるんですか!」

「いや、それよりも先に――面接をする」

「面接?」

「君がここで働けるかどうか、少し質問させてもらう。その答えを参考に、雇うかどうかの最終判断を下すよ」

「わ、分かりました!」


 正規だろうが非正規だろうが、まずは面接をして人柄をチェックしていかないと。受け答えがイマイチならば、考え直す必要もあるし。


 ――と、いうわけで、ジャック青年がうちで働くに相応しいか面接を行うことにした。

 店内に案内し、シェルニ、フラヴィア、ザラ、ケーニルの四人にも事情を説明。

 四人とも理解を示してくれた。


「じゃあ、始めようか」

「よろしくお願いいたします!」


 礼儀正しくお辞儀をするジャック。

 ……なんというか、妙に場慣れしている感がある。

 度胸がいいというかなんというか。

 すると、


「あら? あなた……以前、どこかでお会いしたことがありません?」


 フラヴィアがそんなことを口にする。


「! い、いえ、私は存じ上げませんが……」


 口ではそう語るジャックだが、明らかに目が泳いでいた。


「……嘘は減点対象になるぞ?」

「うっ!」


 露骨に動揺するジャック。

 大きく息を吐いてから、真実を語り始めた。


「じ、実は、前職は城で庭師をしておりまして……」

「その時にフラヴィアを見た、と?」

「はい……まさか、オーレンライト家のご令嬢がいらしているとは思わず、少し動揺をしてしまいまして……」


 その気持ちは分からないでもないな。



 それから、俺たちはジャックへ質問をしていく。

 面接が終わると、遅くなったからと俺は彼を店に泊めることにした。

 最初は遠慮していたジャックだが、キッチンからおいしそうな料理の匂いがするとお腹が鳴り、「そ、それでは、お言葉に甘えて……」と観念する。


 とりあえず、採用か不採用かは飯を食べてからだな。


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