第267話 新生救世主パーティー

 ジェバルト騎士団長とハリエッタのふたりに招かれて、俺はエルドゥーク王都にある城へとやってきた。


 案内された場所は――以前、リシャール王子と面会した場所とは違い、なんとも豪華な造りの広い部屋であった。


「ここは……?」

「リシャール王子の発案で造られた、新しい作戦会議室だよ」


 平然と答えるジェバルト騎士団長だが……これが作戦会議室だって?

 そこかしこに垣間見える絢爛さを見て思う――必要か、これ。もっと用意しておくべきものが他にごまんとあるはずだが。


「気に入ってもらえたかな?」


 半ば呆れつつ、部屋を見回した俺のもとへ、とうとう呼び出した張本人――リシャール第二王子が姿を現した。

 相変わらず、自信に溢れた顔つきをしているな……って、


「! き、君は……」

「久しぶりね、アルヴィン」


 リシャール王子とともに姿を見せたのは、かつてガナード率いる前救世主パーティーの一員であり、抜けた俺の穴埋めとして入ったリュドミーラであった。

 

そういえば、タイタスやフェリオはパーティー解散後に悪党の道へ走っていったが、リュドミーラはまだ残っていたのか。その辺はやはり御三家の一角であるハイゼルフォード家のバックアップあってのことか。


「これで五人……メンバーが揃ったね」


 リュドミーラについて考えていると、リシャール王子がポンと手を叩きながらそんなことを言う。


 メンバー?

 揃った?


 ……大体の見当はつくが、もしかして――


「アルヴィンくん……君には、僕たち新生救世主パーティーの一員として働いてもらいたい」

「っ! 新生救世主パーティー……」


 予想的中。

 俺をパーティーへ誘うため、わざわざ城まで呼び寄せたのか。


「エルフ族と同盟が結ばれるのも時間の問題。彼らの持つ特異な魔力と、我々の軍事力が合わされば、今の弱り切った魔王軍など一瞬のうちに殲滅できる」

「……果たして、本当にそううまくいくでしょうか」

「もちろん、慢心するつもりはないよ。より成功率を上げるためには、さらなる強化が必要になってくる――アルヴィンくんは、その必要な強化の一端だ。……いや、一端どころか、中枢を担うと言っても過言ではないと僕は考えているんだ」

「何せ、あなたは魔族六将をひとりで四人も倒しているのだから当然ね」


 リュドミーラが胸を張って告げた。


「…………」


 困惑。

 それが、素直な俺の心境だった。


 前々から、「こうした誘いはあるかもしれない」と心の片隅に意識を置いていたが、実際にその状況になるとうまく言葉が出ない。

魔族六将と戦ってきたのだって、商人として生きるために必要なことだと思った。それが今では、再び魔王軍討伐の誘いを受けている。


 ……って、最初の時も師匠に「行ってこい」って背中を押されたわけだから、志願ではなかったんだよな。あくまでも師匠の代理って形だったし。

 だが、今は状況が違う。

戦力の中枢とリシャール王子は言った。


 ――問題は、どうにもこの人たちを信用できないって点だよな。

 特にリュドミーラはガナードたちとともに好き放題やらかしていたはずが、御三家令嬢だからという理由からか、ひとりだけ無罪放免みたいな扱いを受けている。

 そもそも、本当にリシャール王子は聖剣の力を引き出すことができるのだろうか。

 聞くところでは、実戦に赴いた経験がないという。

 あのガナードでさえ、戦闘経験は豊富だった。

 技術のあるなし以前に、あの緊迫感を一度も味わったことがないリシャール王子が、聖剣を手に雄々しく魔王軍と戦えるのか――そこは甚だ疑問であった。


「……リシャール王子」

「なんだい?」

「俺は商人です。戦いは――」

「それは分かっている。だから、君には戦闘要員としてではなく、あくまでも商人として僕たちに同行してもらいたい」

「えっ?」


 リシャール王子からの意外な提案に、俺は思わず目を見開いて驚いた。

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