第259話 幻影のファンディア

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 エルフの森で突如始まった魔族六将との戦い。

 相手は幻影のファンディア――その名前からして、恐らくこの男が、エルフの森の戦士たちを狂わせた元凶だろう。


「目的はなんだ?」


 俺がそう尋ねると、ファンディアは「フン」と鼻で笑いながら答える。


「愚問ですね。この森ほど魔力に溢れ、そして美しい場所はありませんよ」

「美しい?」


 魔力溢れるという点は理解できる。

 実際、ヒルデの言っていたあの泉の周辺からは膨大な魔力を感じる。エルフ族だけが使えるという結界魔法も、あの独特の魔力によって生み出されるのだろう。

 それを魔王軍で利用しようというのか……これは人間界の者として見逃すことはできない事態だ。


 ――しかし、そうなるとひとつ疑問が浮かぶ。


 あの泉から溢れるエルフの森特有の魔力。

 それによって生み出された結界魔法は、たとえ魔人族であっても突破するのは困難だ。

 ということは……


「エルフの中に……魔人族を森へ引き入れた者がいる?」


 思惑は不透明だが、そう考えるのが妥当か。

 まあ、あくまでも可能性の一部だが。


 ……真相は、目の前のこいつから聞き出すとするか。


「この森の結界をどうやって抜けてきた?」

「それはちょっと言えないなぁ~」


 勿体ぶった言い方のファンディア。

 だったら――


「説明したくなるようにするまでだ」


 俺は魔剣の切っ先をファンディアへと向けた。


「本当に強引な人ですねぇ」

「いくぞ!」


 レクシーとヒルダが必死にエルフの戦士たちを抑え込もうとしている。それもいつまでもつか分からない――ゆえに、早期にケリをつける必要があるため、じっくりと出方を待つようなマネはしない。


 先手必勝。


 俺は魔剣の属性を雷に変化させてファンディアへと突っ込む。


「くらえ!」


 雷をまとう魔剣が、ファンディアの体を切り裂く――って、


「えっ?」


 あまりにもあっさりとファンディアは直撃を食らい、そのまま消滅。跡形もなく消え去ってしまう。


「えっ? えっ?」

 

 信じられないくらい手応えがなかった。

 ――だが、相手は魔族六将。

 あの程度で倒されるわけがない。

 俺は周囲への警戒を怠らず、魔剣に魔力をまとわせた状態のまま、辺りの様子をうかがう。――と、


「おやおや、さすがは他の魔族六将と戦ってきただけのことはありますね。勝利の瞬間も浮かれることなく、しっかりと気を引き締めていらっしゃる」

「っ!?」


 声のした方へ視線を移すと、先ほどまでとはまったく違う場所にファンディアの姿があった。まさか……最初から偽物だったのか?


 いや……それはないはず。

 ヤツはこちらの隙をついて偽物を生みだし、そいつに戦わせたんだ。

 ……厄介な相手だ。

 さっき戦っていた偽物――正直、本物と区別がつかなかった。油断していたというのもあるのだろうが、すぐには見破れないほど精巧だったのだ。


「私を戦闘バカのデザンタやアイアレンと一緒にしてもらっては困りますねぇ」


 こちらの動揺を読み取ったファンディアが不敵な笑みを浮かべる。

 本人の言う通り、こいつは今まで戦ってきた魔族六将とはまるでタイプが違う。

 ならば……こっちの相応の戦い方をするまでた。


「目つきが変わりましたねぇ……ようやく本気になってくれましたか。これで面白くなるというものです」


 変わらず余裕の態度を見せるファンディア。

 ヤツもまだ、手の内はほとんど見せていないのだろう。


 一体、どんな戦い方をしてくるんだ?

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