第260話 戦いづらい相手

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 魔族六将・幻影のファンディア。

 エルフの森を占領するため、魔王軍から送り込まれた刺客――なのだが、これまで戦ったどの魔族六将とも違う、異質の力を持ったファンディアは、想像以上に戦いづらい相手だった。


「《ストーム・ブレイド!》」


 魔剣から放たれる風の刃。

 鋼鉄でさえ真っ二つにそれの直撃を受けたファンディアは、あっという間に全身がバラバラに吹き飛ぶ。


 だが、これもまた偽物。

 さらに、


「助けてください、アルヴィン様!」

「!?」


 突然聞こえてきた、助けを求めるシェルニの声。

 ――しかし、これもファンディアの罠だった。


「戦闘中によそ見ですか?」

「ぐあっ!?」


 シェルニの声に気を取られている隙をつかれ、俺はファンディアの放った炎攻撃を食らった。魔剣の力である程度威力を弱めることができたので、ダメージは軽微だが……この調子ではやがて力をすべて削り取られてしまう。


 厄介なのは……ちゃんとシェルニの姿が見えるという点だ。

 ヤツは俺たちの仲間の顔や声、性格までもきちんと把握しているらしい。恐らく、これまでの戦闘記録をもとに、俺たちのことを徹底的に分析してきたようだ。これもまた今までの魔族六将にはなかった特徴と言える。


 そうなってくると……ファンディアはここでの戦闘について偶然を装っているが、最初からすべて仕込まれていた可能性もある。

 突然の戦闘で準備不足を匂わせておきながら、その裏ではこちらを倒す算段をきっちり練っていた……したたかなヤツだ。


 おまけに、ファンディアはまだその力のすべてを見せたわけではない。

 あの余裕の態度……まだまだとっておきを隠し持っているようだ。


「おやおや、これはガッカリですねぇ……デザンタやアイアレンを倒した猛者と戦えると思ったら、全然大したことないじゃないですか。あのふたり、どうやら相当弱体化していたようですねぇ」


 こちらを煽って、冷静さを削ごうって魂胆だろうが、その手には乗らない。

 恐らく、純粋な戦闘力の高さで強さを測るなら、このファンディアは今まで戦ってきた魔族六将の中で一番低いだろう。女性だった深緑のレティルにも劣る。

 なぜなら、ファンディアの攻撃は一発一発が非常に弱弱しかったのだ。

 なぶり殺そうって腹積もりがあるなら話は別だが、そういった意図は見えない。そもそも、デザンタやアイアレン、レティルと対峙した時のように、「この一発を食らったら、死ぬかもしれない」というような絶望的な戦闘力を見せていなかった。

 それもまた見せかけだけのフェイクで、真の実力は隠しているという線もなくはないが……実際に戦った感触では、その可能性は低いと見ていい。


 致命の一撃を放てない――補うための話術と幻影魔法。

 そう考えた方が、合点がいく。

 ふたつを駆使してのし上がってきたってわけだ……涙ぐましい努力だな。


 ――けど、だからって負けるわけにはいかない。

 向こうが幾重にも罠を仕掛けてくるというなら……俺は正面からその罠を突破してヤツを倒す。


「うおおおおっ!」


 俺は全魔力を魔剣へと注ぐ。


「やけくそですか? 愚かな人間に相応しい、なんと浅はかな判断か」


 呆れたように言い放つファンディア。

 ――けど、


「む?」


 どうやら、向こうはこちらの狙いに気づいたようだ。


「あ、あなたは……」

「教えておくよ、ファンディア――魔剣はあらゆる属性に自身を変化させることができるんだ」


 俺は魔剣の属性を……ヤツと同じ《幻影》へと変えた。

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