第258話 黒幕を捜せ!
エルフの森の奥にある泉。
そこには、何者かに洗脳されていると思われる武装したエルフの戦士たちが待ち構えていた。
普段はレクシーが言ったように、この辺りは普段、ピクニックに来て景色を楽しむのんびりとした癒しの空間だ。――しかし、今は正反対のピリピリとした緊張感に包まれている。
「「「「「…………」」」」」
俺たちの気配を察したエルフの戦士たちは、ゆっくりとこちらへ進軍してくる。
目がうつろで、明らかに正常ではない。
となると……彼らをあんな風にしてしまった元凶――魔人族が必ずこの近くにいるはずだ。
「操っている張本人がどこかにいるはずなんだが……」
「そいつを叩かない限り、彼らはもとに戻らないってわけね」
「弱りましたね……」
ザッと見積もっても、進軍してくるエルフたちの数は五十以上。
そんな彼らを相手にしつつ、黒幕を捜さなくてはいけない――これは骨だ。
そこで、
「……二手に分かれよう」
俺はそう提案する。
「わ、分かれて戦うのですか?」
「……でも、それしかないわよ。私とヒルダで、森の戦士たちを抑え込みましょう」
「む、無茶ですよ!」
「真っ向から勝負を挑む必要はない。俺が黒幕を探しだす間、彼らを引きつけておいてくれたらそれでいい」
「……分かりました。やりましょう」
ヒルダも覚悟を決めたようだ。
現状、それしか突破口はなさそうだし……これに賭けるしかない。
「頼んだぞ、ふたりとも」
「任せて!」
「頑張ります」
作戦が決まったところで俺たちは散開し、それぞれの仕事をこなすことに。
俺はこの湿地帯のどこかにいると思われる黒幕を捜すため、探知魔法を発動させた。その直後、背後で爆発音がし、振り返ってみると、白煙が立ち込めていた。どうやら、煙幕を使ってかく乱する作戦を取ったらしい。
「その調子で頼むぞ……」
ふたりの無事を祈りつつ、俺は魔力を魔剣の先端へと集中させる。そして、それを地面に優しくコンと叩きつけた――次の瞬間、森中に俺の魔力が張り巡らされていく。
その魔力は俺の目であり、耳でもある。
「どこだ……どこにいる……」
森中の情報が俺の中へ注がれていく。
どこへ隠れようが、必ず見つけだしてやる。
――その時、
「!?」
湿地帯にある一本の木の上。
そこに、魔人族が潜んでいる。
俺は敵に悟られないよう、迷っているような足取りで徐々に近づいてき、射程圏内に入った瞬間、属性をすぐさま風へと変更。
そして、魔力を風の刃に変えて潜んでいる木の上へと放った。
着弾と同時に轟音と突風が襲いかかる。
手応えはあった。
あとはヤツがどこへ移動したのか……その足取りを追えば――
「やれやれ、思っていた以上に強引な方だ」
突如、背後から声がした。
振り返ると、そこにはタキシードに似た服をまとう魔人族の姿が。
「しかし、なるほど……さすがは我ら誉れ高き魔族六将をひとりで半分も倒しただけのことはある。その実力は本物のようですね」
落ち着いた物腰で語る魔人族の男。
そして、「我ら」という言い方……そこから、この魔人族もまた魔族六将であることがうかがえる。
「あんたも魔族六将なのか……?」
「一応、そういうことになっていますね」
……なんだ?
うまくは言えないけど、デザンタやアイアレンとは明らかにタイプが違う。
「申し遅れました。私の名はファンディア。魔王軍の中では魔族六将のひとりに数えられており、《幻影のファンティア》なんて呼ばれ方もしています。いやはや、私には荷が重すぎる肩書に異名ですよ、まったく」
ため息交じりにそんなことを語る魔族六将のひとり――幻影のファンディア。
「ここで戦うつもりはなかったのですが……このままでは私の計画の障害となりえそうですし、処分するといたしましょうか」
「何っ!?」
「噂に聞く魔剣使いの商人の力――とくと拝見させていただきますよ」
どうやら、向こうはヤル気らしい。
俺は魔剣を構え直し、幻影のファンディアとにらみ合う。
まさか、こんなところで魔族六将と戦うことになるとは……でも、負けるわけにはいかない。
エルフたちのためにも。
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