第26話 ワイルドエルフ
「いや~、ホント助かったわ~」
気絶しているワイルドエルフの少女――名前をレクシーというらしいが、どうやらモンスターとの戦闘で勝利するも、敵が死に際に放った毒霧を浴び、麻痺状態に陥っていたらしい。
ダンジョンの外へと連れ出し、近くの小川のほとりで麻痺消しの薬草を与えたことですぐに復活した。
「しかし、ソロで最奥部までたどり着けるなんて……さすがはワイルドエルフだな」
「まあ、ほら、あたしらはそこらの種族とはタフさが違うからね」
ワイルドエルフといえば、通常のエルフ族より文明が遅れているものの、その身体能力の高さは比較にならないって噂だな。一般的なエルフは知的で、人間と共存関係を築いている者もいる。だが、ワイルドエルフはそういった縛りをもたず、彼女のように冒険者稼業をしている者が多いと聞くな。
「ていうか、むしろ人間ふたりだけであんな深くまで来たって方が、あたし的には驚きだけどね。難易度としては難しくないとはいっても、人間だけでっていう条件なら、また話は変わってくるだろうし」
「そこはまあ……俺とシェルニのコンビネーションが抜群だからな」
「そうです!」
フンス、と鼻を鳴らすシェルニ。
それを見たレクシーは「ふっ」と小さく笑う。
「いいねぇ……お互いを信頼し合っているパーティーっていうのは。あ、この場合はどちらかというと愛し合っていると言った方がいいかな?」
「あ、愛し!?」
シェルニは顔を真っ赤にして思考停止。
こういう話題には弱いんだな。
「期待を裏切るようだけど、俺とシェルニはそういうのじゃないよ」
「えっ? そうなの? 男女のパーティーといえば、カップルが相場じゃないの?」
「多いには多いが、全部がそうとは限らないぞ」
「えぇ~……」
なぜか残念そうなレクシー。
だが、すぐにパッと表情が明るくなり、ズイッとこちらへ体を近づける。
「ねぇねぇ! あなたたちはこれからどうするの?」
「どうするって?」
「あのダンジョンの一番奥へ行ったのなら、次の目的地は当然より難易度の高いダンジョンなんでしょ?」
話しつつ、距離を詰めてくるレクシーを引きはがし、コホンと咳払いを挟んでからその質問に答えた。
「俺たちは冒険者が本業ってわけじゃない。あくまでも、商人であって、自分たちの店で出すアイテムを集めるのが主目的だ」
「えっ? 商人なの? そんなに強いのに?」
真顔で驚かれた。
でもまあ、それは無理もないかもな。
たったふたりでこのダンジョンの最奥部にたどり着いたのなら、次のダンジョンも比較的容易に進めるはず。
ただ、俺たちはダンジョンの奥底へ進んでいくような高難易度のクエストをクリアするために潜るんじゃない。あくまでも、武器やアイテムを売って生計を立てることを目指している。
高額なアイテムばかりを集めなくたって、日々を平穏に暮らしていけるくらいのお金があればいい。大金を持ちすぎると、余計なトラブルを招くからな。
「なんか勿体ないわねぇ。本職の冒険者になればいいのに……あなたたちくらいの強さだったら、高額報酬が狙える討伐クエストも難なくこなせると思うけど」
「そうだなぁ……あっ、この前の大猿討伐みたいに、誰かの助けになるクエストなら受けるかもな」
人助けになるっていうなら、討伐クエストも視野に入れるが……基本はやっぱり採集クエストになるかな。
「ふ~ん、いろんな考え方があるのねぇ」
レクシーはうんうんと頷きながら、とりあえずは納得した様子。
「レクシーさんは次のダンジョンへ挑戦しないんですか?」
「もちろん、挑戦するつもりよ!」
「でしたら、アイテムや武器の調達をする時は、是非、私たちのお店に来てください」
おおっ!
あのシェルニが客の呼び込みをするなんて……成長したな。
「そうさせてもらうわ!」
満面の笑みでサムズアップを決めるレクシー。
どうやら、うちの店の来客第一号は、このたくましいワイルドエルフに決まったみたいだな。
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