第253話 森の異変
エルフ族と交渉するため、俺とレクシーはバルディリス隊長率いる先遣隊の一員として森へ先行することとなった。
丘を越える手前に差しかかると、俺の横を歩いていたヒルダから突然声をかけられた。前を行くレクシーに聞かれないためか、ボリュームはだいぶ控え目だった。
「ありがとうございます、アルヴィンさん」
「えっ?」
突然お礼を言われたが……なんのことだ?
「レクシーが元気にここまで過ごしてこられたのは、あなたのおかげです」
「俺の?」
そうだろうか。
初めて会った時から、割と元気な子だったって印象だけどな。
「あの子は昔から、いろいろとため込んでしまうタイプなので、表面上は何でもないように装っても、心の中では苦しんでいる……そういう子でしたから」
「レクシーが……?」
それはまた以外だ。
とはいえ、俺とレクシーはまだ出会って一年も経っていない。幼い頃から何度も顔を合わせているヒルダにしか分からないこともあるだろう。
「きっと、ご両親が亡くなられてから、相当無理をしていたのだと思うから……」
……言われてみたら、そうだよな。
ワイルドエルフの血が流れているレクシーは、並の人間よりずっと身体能力が高い。武装した屈強な冒険者であっても、あらゆる武器に精通するレクシーを止めることは難しいだろう。
だが、精神面はそういうわけにもいかない。
両親の死は、そう簡単に乗り越えられるわけではないだろうし、これまでずっと貴族として暮らしてきた身から、危険を伴う冒険者生活――その心労は相当なものだった。
そう思うと……レクシーは凄いな。
「……ところで」
「はい?」
「あなたのパーティーはあなた以外全員女性なのですね」
「あ、ああ」
「それは意図的にそうしているのですか?」
「い、いや、偶発的なものだよ」
これはよく聞かれるが、狙って女性ばかりをメンバーにしているわけじゃない。どういうわけか、縁あって組むことになった人物がたまたま女性だっただけだ。
……しかし、それを尋ねてきたヒルダからは妙な圧を感じる。
「それはもちろん、レクシーも承知していることですよね?」
「と、当然だ」
「ならば……いいです。でも」
「でも?」
「レクシーを泣かせるようなことだけはしないでくださいね」
ニコッと微笑むヒルダ。
――しかし、心の奥底では笑っていない。思えば、彼女は血こそつながっていないとはいえ、レクシーにとっては姉も同然の存在。そしてそれは、ヒルダにも言えること。彼女はレクシーを実の妹のように思っているのだ。
久しぶりに再会した、妹同然のレクシーが、大勢の女性を抱えるパーティーにいるのだから心配になるよな。向こうはこっちの素性とか全然知らないだろうし。
だとしたら、断言しておいた方がいいかな。
「その点については心配無用ですよ。俺は絶対にレクシーを悲しませるようなマネはしませんから」
「……信じましょう。その言葉を」
再び微笑むヒルダ。
今度は心からの笑顔だ。
――と、その時、
「っ!?」
突如、森の方から強大な魔力が流れ込んでくる。
それはほんの一瞬であったが……間違いない。あれはエルフの魔力ではない。
「今の……魔族か?」
一瞬だが、エルフの森から伝わってきたのは間違いなく魔族の持つ魔力。
あの森に……魔族が潜伏しているのか?
「? どうかしましたか?」
「……いや、さっき一瞬だけ――」
「あ、あれはなんだ!?」
魔族の件をヒルダに話そうとした時、先頭を行くバルディリス隊長が叫んだ。
先を行っていたレクシーが駆けだし、そのあとを俺とヒルダも追う。
丘の頂上で俺たちが目撃したのは――エルフの森の一部が炎上している光景だった。
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