第216話 ひとりじゃない
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お宝ダンジョンはしばらく封鎖されることが決まった。
周辺にテントを張り、解禁となる日を待ち望んでいた冒険者たちからはブーイングも起きたが、ダンジョン内部に魔人族がいたことを告げられると、一様にだんまり。いくらお宝が出るからって、魔人族が潜んでいるかもしれないダンジョンへ潜ろうとする者はいなかった。
「ただ、俺としても、このダンジョンがこのまま放置されておくのは忍びないと思っている。より詳しい調査を行い、解禁できるように尽力していくつもりだ」
とどめとばかりに、ザイケルさんが冒険者たち相手にそう演説する。
日頃から彼の誠実な仕事ぶりを知っている冒険者たちは、きっと実現してくれるだろうと思い、その言葉を信じて撤収の準備を始めていた。
これからの話だが、ザイケルさんやネモは調査のため、もうしばらくこのダンジョン周辺に残るという。
一方、俺とレクシーは未だに呆然としているケーニルを連れて店へと戻る。
ダビンクに住む冒険者にとって、ケーニルの存在は慣れたものだが、この中にはお宝ダンジョンの噂を聞きつけて遠征してきたよその冒険者も大勢いる。彼らに余計な誤解を与えて場が混乱しないよう、ケーニルにはローブを来てもらい、顔を隠してこっそりとその場を抜け出した。
ダビンクに到着し、店が近づいてくると、
「ごめんなさい、アルヴィン。それにレクシーも」
ケーニルらしくない、暗い声と表情だった。
「あのザイーガって魔人族……ケーニルにとってはとても大切な存在だったんだね」
俺がそう尋ねると、ケーニルは静かに頷き、
「親代わりって感じだった」
そう語った。
「親代わり?」
「うん。私、小さい頃からずっと森の中にある塔で暮らしていて……お父さんもお母さんも、どこにいるか分からなかったの。だけど……たまにザイーガがやってきて、食事や遊び道具を持ってきてくれたの」
「そうだったのか……」
しかし……妙な関係だな。
そのザイーガって人が実の親って訳じゃないのか? いや、もしかしたら何か特別な事情が――って、こっちの世界じゃ魔人族の家族事情がどうなっているのかなんてサッパリだしなぁ。
その時、俺の頭の中にザイーガの最後の言葉が浮かび上がった。
『最後に……いい知らせが聞けた……どうか……ケーニル……君は――』
アレはどう考えても、ケーニルに対して好意的な感情を抱いているように思える。それも、家族愛的な。
やはりザイーガって人が本当の親で、ある事情からケーニルを塔に閉じ込めていたのか? そして、これまたある事情から魔王軍へと加わり、砂塵のデザンタの部下となってこの世界へとやってきた。
――いかん。
やっぱりいろいろと情報不足だ。
「ケーニル」
「何?」
「続きはおいしいご飯を食べながらにしないか? ――ほら、みんな待っているみたいだし」
「えっ?」
俺がそう言うと、俯いていたケーニルは顔を上げた。
その視線の先には、店の前で俺たちの帰りを待っていたフラヴィア、シェルニ、ザラの三人が立っており、俺たちを見つけるとみんな笑顔で手を振った。
「君はひとりじゃないんだから」
「……うん!」
時間にすれば数時間程度なのに、物凄く久しぶりに見る気がするケーニルの笑顔。
とりあえず、元気になってくれたようでよかったよ。
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