第89話 世界を呑み込む砂
砂漠の真ん中に現れた超巨大な流砂。
それは周囲のあらゆる物を呑み込もうとしているようで、その標的にこの城も含まれているようだった。
このままだと……ゴルロフの村も――
「魔王様から、この大陸は俺の自由にしていいと許可を得ている。というわけで、ここを俺好みの土地に改良するため、まずは邪魔者をすべて呑み込んで処理しないとな」
魔族六将のひとりである砂塵のデザンタは、もうすでに俺たちを葬り去ったあとのことを考えていた。というより、最初からそのつもりだったようだ。
「ア、アルヴィン様!」
シェルニが叫ぶ。
悠長に戦っている暇はない。
一刻も早くデザンタを倒して、あの流砂を止めないと――本当に、この大陸にある物すべてを呑み込んでしまう勢いだ。
「足掻いてみるか?」
デザンタは再び大剣を振るう。
まだ考えはまとまっていないが、それを待ってくれるほど相手は愚かではないだろうし、そもそもこちらの対応が遅れれば流砂に呑み込まれる時間が早まるだけだ。
早急に、しかし確実な手を構築する必要がある。
「ハッハーッ!」
そんな俺の状況を嘲笑うかのように、デザンタのラッシュは続く。その隙をついて、カウンターを仕掛けるが、
「!?」
先ほどと同じように、魔剣がデザンタのボディを捉える――はずが、まるで手応えを感じず、それどころか空振りしたようで、俺は大きくバランスを崩した。
「いいセンスだ」
先ほどまで正面にいたはずのデザンタの声が、なぜか背後から聞こえてきた。最初は瞬間移動の類かと思ったが……ヤツの体に表れている変化を目の当たりにして、謎は氷解した。
ヤツは全身を砂そのものに変化することができる。
今も、首から下は周囲の砂の色と同化しており、先ほど斬りつけた場所にできた傷もあっという間に消え去っていた。
つまり、物理攻撃でダメージを与えることは不可能。
魔法攻撃が有効なようだが、
「水魔法で俺を固めてみるか?」
俺が魔剣をかざした瞬間、デザンタがそんなことを言う。
思考の先読みというよりも、この状況下で考えつくことといえばそれくらいだろう。
それはきっとヤツも同じだ。
ゆえに、なんの対策も講じていない――ってわけじゃないはず。
……だったら、こっちにもやりようがある。
俺は意識を集中する。
「お? 腹をくくったか?」
デザンタは興味深げに俺の行動を眺めていた。
ここまでは想定通り。
ヤツは俺たち人間に負けることなど微塵も考えてはいない。
あのケーニルって魔族が敗北したことを知っているのか知らないのか……まあ、それはともかく、絶対的な自信に溢れていた。
言い換えれば、そこが急所。
ヤツが魔剣の力を侮って、余裕をかましている間に――勝敗を決める。
ブワッ!
魔剣への魔力供給量が一定値を超える。
その結果、魔剣はその「色」を変えた。
「む?」
デザンタの余裕の表情が、わずかに崩れた。
魔剣に込められた魔力を感じ取ったようだが、何かの間違いとでも思ったのか、すぐには動きださなかった。この動きは、俺にとって幸いだった。
おかげで――さらにもう一段階上げられる。
「こ、この魔力は……」
「す、凄いです……」
自分たちも魔法を扱うフラヴィアとシェルニは、俺の身に起きている事態を察して若干引いていた。
無理もないか。
ここから先は、一番付き合いの古いシェルニにさえ披露したことがない領域だからな。
「こ、こいつ……!」
ここへ来て、ようやくデザンタも焦り始めた。
これ以上はさせないと、襲いかかってくる。
……さすがは魔族六将だ。
俺に「こいつ」を使わせるなんて。
「あんたはシューヴァルからもっと魔剣のことを聞いておくべきだったな」
焦りからか、先ほどと比べて雑なデザンタの一撃をかわして、これまたさっきと同じようにカウンターを決める。
「ぐっ!」
だが、決定的な違いはデザンタのリアクション。
今度は確実にダメージが入っている。
さあ、形勢逆転だ。
時間もないことだし、ここから一気に反撃へと移ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます