第90話 勝つための方法
「その魔剣……ただの魔剣じゃねぇな」
明らかに弱りが見える砂塵のデザンタ。
俺の魔剣に何かあるのではないかと勘繰っているようだが……これについて俺は何も知らない。師匠のもとで剣術を教わり始めた頃には、すでにこいつが俺の相棒だった。もしかしたら、師匠が魔界から持ち帰った代物だったのかもな。
「魔剣についてなら、おまえたちの方が専門だろう?」
「ふん! 面白ぇ……」
デザンタの気配が変わる。
これまでの見下していた感覚が消えた。
どうやら、ここからが本番ってことらしい。
……できることなら、向こうがその気になる前に決着をつけたかったが、さすがにそう上手くことは運ばないか。
「おおおおおおおお!!」
余裕の欠片もない、力強い雄叫びがこだます。
本気を出してきたようだが、それでもデザンタの攻撃方法は武器を使用した物理によるもの。
魔族は元々魔力量が人間とは段違いだ。
そのため、魔族の大半は魔法主体の戦い方がほとんどだが、このデザンタはどうも違うらしい。この大陸を呑み込もうとする巨大流砂をはじめ、トラップ絡みでは魔力を使用するが、戦闘については肉体派のようだ。
「はあっ!」
放たれた強烈な一撃。
その衝撃で、足元の砂を撒きあげる。
「む?」
まるで壁のように立ち上がった砂。そのせいで、視界がかなり狭まってしまった。これがヤツの狙いか……。
隠れたヤツを感じ取れるよう、瞑目して気配を探る。
それと同時に、ひとつ罠を張った。
これが功を奏するか……とりあえず、魔剣についての知識もそうだったし、あいつは魔法絡みの情報に疎いと見る。ならば、この手が有効なはずだ。床に敷き詰められた砂もいいカモフラージュになってくれる。
それと、もうひとつこの砂塵のデザンタについて分かったことがある。
今こうして、俺の視界を塞いでいるが、その間、パーティーのメンバーへ手を出すようなマネをしていない。フラヴィアやレクシーあたりは実力者だが、それでもデザンタを相手にするのは酷だろう。
だが、デザンタは人質を取るような行為はしない。
俺との勝負に執着しているようだ。
言ってみれば、魔族ではあるが真っ向勝負を望む、騎士道精神を持っている。
……この点に関しては、ガナードも少し見習ってもらいたい。
「おらぁ!」
砂煙の向こうから、デザンタの大剣が振り下ろされる。
軌道を見極めて、これを回避。
「こいつ!」
魔剣に集まる強大な魔力を感じているデザンタにとって、これを放たれる前にケリをつけたいって気持ちがあるのだろうが――こいつはフェイクだ。
俺の仕掛けを成功させるため、ヤツの意識を魔剣へと集中させる。
デザンタは魔剣の戦いに慣れていない。
今のところはそれが幸いしている。
あとはいかにその好機を生かすかだが……。
「でやっ!」
俺は反撃に出る。
剣を振るい、それをデザンタは正面から受け止めた。俺の魔剣に集まる魔力を分散させるため、少しでも魔力を消費させようというのが狙いだろう。
それを俺は受けて立つ。
相手は自在に体を砂に変えて、さまざまな角度から攻撃を仕掛けてくる変則的な戦闘スタイル。間違いなく、人間やモンスターでは再現できない戦い方だ。
当然、俺にとっては初見となる戦法だが、これをなんとか切り抜けていく。すると、次第に、デザンタの態度に変化が見え始めた。
「おまえ……なかなかやるなぁ」
姿を見せたデザンタは、ため息を交えながらそう言った。
「聖剣使いの救世主なんていうのはただの見せかけと思っていたが、その考えは訂正しなくちゃいけないみたいだ」
「……その必要はない」
「謙遜するなよ」
そういう意味じゃないんだが……まあ、俺が救世主じゃないと否定するのも面倒だからこのままでもいいかな。――例の仕掛けも仕込み終えたところだし。
さあ、そろそろ決着といこう。
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