第88話 魔族六将、その実力

 激しい揺れは収まる気配を見せない。 

 

「くくく……」


 変わらず不敵な笑みを浮かべ続けるデザンタはさらに、


「おまえの得物はてっきり聖剣とばかり思っていたが……まさか魔剣使いだったとは」


 俺が魔剣使いであること――それが、魔族六将の関心を引いたらしい。そうなってくると、恐らく発端となっているのはあの人の存在だろう。


「おまえがシューヴァルに煮え湯を飲ませたって聖騎士か?」


 やはりそうか。

 俺の師匠――聖騎士ロッド・フローレンス。

 かつて、魔族六将のひとりである氷雨のシューヴァルと激闘を繰り広げた、間違いなく人間界最強クラスの剣士。

 ――だけど、今の口ぶりだと、


「師匠は魔剣使いじゃなかったはずだ」

「師匠? なんだ、おまえは弟子の方か。弟子のくせに師匠が愛用している武器を知らないのか?」


 痛いところをつかれた。

 あの時はまだ俺も子どもだったし、戦場へついていくなんてこともなかった。モンスター討伐くらいは同行したけど、それ以上の激しい戦闘が伴う現場には行ったことがなかったのだ。


 師匠も俺と同じ魔剣使い……って、今はそれどころじゃないな。


「この横揺れは一体何のために起きている?」

「そう簡単に手の内を披露するヤツがいるかよ」


 ……ごもっともだ。

 それなら、


「それなら――力ずくで答えてもらう」


 どう考えても、俺たちにとってはよくないことが起きようとしている前兆活動にしか思えないこの横揺れ。その原因を早急に解明しないと、取り返しのつかないことになってしまう。


「みんなは少し離れていてくれ!」


 シェルニたちへそう言い残し、俺はデザンタへと仕掛ける。


「はっ! そうこなくちゃよ!」


 待っていましたと言わんばかりに、デザンタは手にした大剣を振る。それは俺の手にした魔剣と正面からぶつかり合い、火花を散らす。


「やるじゃないか、人間!」

「そりゃどうも」

「あのシューヴァルを追い詰めた聖騎士の弟子というだけはある! やっぱりおまえの方が救世主だったようだな!」


 心の底から勝負を楽しんでいる様子のデザンタだが、こっちにはそんな余裕はない。とにかく、最初から仕掛けていかないと。


「うおおぉ!」


 俺はデザンタの剣を弾き飛ばすと、強力な魔力をまとわせた魔剣で斬りかかる。魔剣から放たれる斬撃は、直接当たらなくても相手にダメージを与えられる――いわゆる、飛ぶ斬撃を放てるのだ。

 危険を感じたデザンタは一歩後退するが、すでに遅かった。俺の放った合計五発の斬撃はすべて命中し、吹っ飛ばされたデザンタは岩の壁に背中から叩きつけられた。


「やった!」

「さすがはアルヴィンさんですわね」


 レクシーやフラヴィアたちから歓喜の声が上がる。一方、シェルニは不安そうな顔をしつつ、俺の攻撃が決まったことでホッと胸を撫で下ろしていた。


 ……だが、これはまだ序の口。


「いいねぇ! 弟子だと聞いたから少しガックリしたが――おまえはおまえで十分俺を楽しませてくれそうだ!」


 デザンタはピンピンしていた。

 むろん、俺だって今の一撃でカタがつくなんて思っちゃいない。

 それでも、少しくらいはダメージが入ったと期待したが……あの様子じゃ、それも望み薄だな。


 もしかしたら、無属性魔法に弱かったケーニルのように、弱点となる属性があるのかもしれない。ただ、ケーニルの時のように検証しながら戦っていけるほど、容易な相手でないというのも事実だ。


 つまり、残された手段は少ない。


 確実に敵へダメージを与える方法を早急に考えつく必要があった。

 長期戦になれば、こちらが不利だ。


 俺が突破口を考えていると、揺れの方向が変化した。

 さっきまで横揺れだったのが、縦揺れに変わり、さらに、


「た、大変だ!?」


 窓の外へ視線を向けていたスヴェンさんが叫ぶ。


「おっと、もう気づかれちまったか」


 残念そうに言うデザンタ。

 なんだ?

 外に何かあるのか?


「一体何があったんですの!?」

 

 デザンタと対峙している俺にも伝わるよう、フラヴィアがスヴェンさんにそう尋ねる。そのスヴェンさんから返ってきた言葉に、俺たちは耳を疑った。


「馬鹿デカい流砂だ! 流砂が周りを呑み込んでいる!」


「「「「「なっ!?」」」」」


 俺たち五人は声を揃えて驚いた。

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