第239話 南へ
元救世主パーティーの魔法使いで、現詐欺集団の親玉であるフェリオを追って、俺たちは潜伏先の最有力候補であるムジェルという町を目指し、南へ進んでいた。
「でも、その魔法使いは今までのヤツに比べると手強そうね」
のんびりと馬車の荷台で風景を眺めていたレクシーが言う。
「まあ……したたかであるのは間違いないかな」
「何か根拠があるんですの?」
「根拠というか……フェリオは男を手玉に取って言いなりにさせることにも長けていたから、彼女に加担する者も少なくなかったよ。フェリオ自身が直接手を汚さず、たぶらかした男たちにやらせているって感じさ。ああいうのを魔性って呼ぶんだろうなぁ」
「「!?」」
俺がそう言うと、レクシーとフラヴィアの顔つきが変わる。
「……アルヴィンは大丈夫よね?」
「? 大丈夫って?」
「その……フェリオさんの策にハマったりなどしていませんわよね?」
「ははは、その点は心配ないよ。商人という名の雑用係だった俺に、フェリオは興味を抱かなかったからね。彼女が興味を持つのは金のある男だけさ」
そう説明したら、ふたりはため息を漏らした。
まあ、仮に言い寄られていたとしても、フェリオの黒い部分をよく知る身としてはお断りしたいかな。
目的地であるムジェルの町には夕暮れ前に到着することができた。
大陸最南部の都市とダビンクを結ぶ中間地点とも呼ぶべきこの町は、思ったよりもずっと栄えていた。
まもなく夜になるということで、市場は静かでまったりとした時間が流れている。それでもひと通りは決して少ないというわけではない。
「アルヴィンはこの町に来たことがあるの?」
無邪気に尋ねるケーニルヘ、俺はまず首を横へ振り、それから話をする。
「こっちの方へ来るのは俺も初めてだよ」
「あら、そうでしたの? ……まあ、かく言うわたくしも、この町へ足を運んだのは今日が初めてですけど」
「ここはオーレンライト家が治める領地の中でも隅っこの方だからな」
この町からさらに南へ行くと大きな川があり、そこにかけられている橋が他の領主が治める領地との境目となっている。
「とにかくまずは宿屋の確保からするか」
この町のどこかにフェリオがいるかもしれない。
すぐにでも調査を開始するため、二手に別れることを提案する。
俺、フラヴィア、ザラは聞き込みを。
レクシー、ケーニル、シェルニで宿の確保に動いてもらう。
どこでフェリオが俺たちを見ているか分からないので、戦力もしっかりと分散させておくようにする。
レクシーとケーニルがいれば、よっぽど大丈夫だろう。シェルニだって、防御魔法でふたりを援護できるし。
俺たちは町の中心にある噴水を集合場所に定め、一時間後に再度この場で合流することを確認してからそれぞれの目的地へ向かった散っていった。
「フェリオさんという方はどこにいるんでしょうか……」
「ザラさん、お気をつけなさい。……その物陰からあなたをこっそり狙っているかもしれませんわよ?」
「ひうっ!?」
幼いザラを怖がらせるフラヴィア。
それだと、まるでフェリオが幽霊の類だな。
ふたりのやりとりに和んでいると――どうやら、向こうからアクションをかけてきてくれたようだ。
「おう、兄ちゃんたち……ちょっとツラ貸せや」
六人組の屈強な男たちが、俺たちの行く手を阻むように立ちふさがった。
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