第223話 新たな救世主
リシャール王子の大胆な宣言。
ガナードがいなくなった今、新たな救世主として名乗りをあげた。
その宣言を聞き届けてから、俺たちは部屋をあとにする。
いろいろと言いたいことはあったけど、なんていうか……これ以上はあまりかかわりたくないというのが本音だった。
「リ、リシャール王子が……新しい救世主……」
馬車に乗って帰路に就く途中、俺は思わずそうこぼした。
「どう思う?」
「あれには驚きましたわ」
俺が尋ねると、フラヴィアは素直な感想を述べ、御者を務めるザイケルさんも「まったくだ」と同意する。
「救世主ガナードの失踪という事実が国民に与える不安の大きさは確かに計り知れないものだけど……だからと言って、リシャール王子が聖剣を引き継いで救世主になるっていうのは……」
「しかし、あの自信満々な様子ですと、聖剣の力をある程度コントロールできているということ……」
「主がいなくなればすぐに心変わり……聖剣とやらは随分と尻軽だな」
口をついて出てくるのは、やはりマイナスな発言が多い。
それはきっと、俺たちが王子の救世主発言を受けて真っ先に思い浮かんだことが一致していたからだろう。
「リシャール王子は……救世主としての立場を政治利用するつもりなのだろう」
ザイケルさんがみんなの気持ちを代弁するかのように言った。
「やっぱり……そう映りますよね」
「次期国王の最有力候補であるリシャール第二王子が救世主として実績をあげれば、もう対抗する勢力は完全になくなりますわね」
「対抗というと――ブライス第一王子か」
当然そうなる。
しかし、ハリエッタたち騎士の対応を見ている限り、ブライス王子が国王になるのは望み薄だろう。それ以前に、突然行方をくらますことが日常茶飯事であるということから、ブライス王子自身に国王の座へつこうという意欲がないように思えた。
「でもよぉ、これでよかったんじゃねぇか?」
唐突に、ザイケルさんがそんなことを言う。
「これでアルヴィンも商人の仕事に専念できるからな。正直、リシャール王子がいたのを見た時は、アルヴィンに救世主となれって言いだすと思ったよ」
「わたくしもですわ」
あぁ……なるほど。
その可能性もあったか。
「だが、向こうがやってくれるというならそれに越したことはない。リシャール王子は賢いだけじゃなく、剣の腕も超一流と聞く。一部ではジェバルト騎士団長でさえ敵わないとも噂されているくらいだ」
「ジェバルト騎士団長……」
そういえば、ジェバルト騎士団長の様子がおかしかったな。
いつもは飄々としているのに、あの時は妙に緊張していたように映った。王子がいるからってこともあるのだろうが、これまでの付き合いから、それでも普段の態度を変えるような人じゃないと思うんだけど。
何か、裏の意図を感じるが、あまりにも情報不足でそれ以上は詮索のしようがない。
とりあえず、ザイケルさんが言ったように、商人としての仕事に専念できるというのはありがたい。
「これでようやく……望んだ生活に落ち着けそうだ」
「ですわね♪」
俺以上に嬉しそうなフラヴィア。
結果としては良い方向へ流れたんだから、まあいいか。
さて、明日からまた忙しくなるぞ。
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