第214話 揺れる魔王軍

 魔族六将――《焔掌のガルガレム》。

 そのガルガレムの側近だという魔人族・ザイーガは、仲間割れの果てにその命を散らした。

 ザイーガの死に対し、ケーニルは涙を流して悲しがっている。

 きっと、俺たちにはまだ言っていないが、このザイーガという魔人族とは浅からぬ関係であったことが窺えた。


 俺個人としては、亡くなったザイーガという魔人族に対して思い入れはない。だが、あのケーニルが涙を流すほど悲しんでいるというなら話は別だ。それに、最近は大人しくなっているとはいえ、人間界を制圧しようとする魔王軍の兵士がいるというなら、戦わないわけにはいかない。


「そ、そうか……」


 俺が魔剣を構えると、魔人族のひとりが突然話し始めた。


「こいつだ! こいつが救世主だ!」

「えっ?」


 それってつまり、俺とガナードを間違えたってことか?

 ……心外だな。


 ――が、別の魔人族が口走った言葉に、俺は強い衝撃を受けた。


「バカ! こいつは救世主なんかじゃねぇ! 本物は魔境にいるはずだ!」

「っ!」


 本物は魔境にいる。

 魔人族の口走ったその言葉に、俺の思考は一瞬停止した。


 現在、ガナードは氷雨のシューヴァルとの戦闘後に行方不明となっている。

そのせいで、救世主パーティーは解体となり、彼らの後ろ盾だったベシデル枢機卿は失脚し、無職となったタイタスはヤケを起こして犯罪組織のボスとなった。


 すべてを狂わせた元凶のガナード。

 そのガナードが……魔境と呼ばれる場所にいるのだという。


 だけど、なぜ彼らがそれを知っているんだ?

 同じ魔王軍なんだから知っていてもおかしくはないのだろうが……妙に引っかかるんだよな。それに、同僚であるザイーガを殺害したということは、魔王軍内部で争いが起きている可能性が高い。

 もしそうだとするなら、救世主の力を借りなくても、人間側が魔王軍に勝利するのも不可能背はなくなってくる。


 そのためにも――情報収集といこうか。


「ビビるな! いくら魔力が強力だからって、たかが人間」

「そ、そうだ!」

「まとめていけば対応はできないはずだ!」


 ひとりでは敵わないと思った魔人族三人組は、


「「「おらぁ!」」」


 一斉に飛びかかってきた。

 スピード・パワーともに人間を遥かに凌駕している。


 ――だが、新しい魔剣は、それらのさらに上をゆく。



 飛びかかってきた三人を、光属性の魔力をまとわせた魔剣で薙ぎ払う。

 ふたりは光属性への耐性が弱かったようで、一瞬にして灰となった。


 残ったリーダー格の魔人族はその場にへたり込み、信じられないといった顔つきで俺を眺めていた。


「さあ、吐いてもらおうか」

「は、吐く?」

「ふたつだ。ひとつはおまえたちがここにいる目的。そしてもうひとつは――さっき言っていた、救世主ガナードの所在について、だ」

「……分かったよ」


 魔剣の切っ先を向けると、生き残った魔人族は観念したようにボソボソと語り始めた。


「お、俺が知っているのは――ぐっ!?」


 と、そこで、突如魔人族が苦しみ始めた。


「お、おい!」


 これは……呪いの類か!?


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