第213話 ケーニルとザイーガ
「待て、ケーニル!」
ケーニルを追いかける形で、俺も魔人族たちの前へと飛び出した。
「なんだぁ? おまえは魔人族でありながら、人間と行動を共にしているのか?」
三人組のひとりが、ケーニルへと詰め寄る。
すると、
「よせ! ケーニルから離れろ!」
ザイーガがケーニルを守るように彼女の前へと立つ。
……ていうか、ザイーガはケーニルのことを知っている? いや、同じ魔王軍なのだから知っていても不思議じゃないんだけど――なんだか様子がおかしい。
「ケ、ケーニル……?」
三人組の魔人族たちはケーニルの名前を聞いた途端、顔色が変わって何やらコソコソと話し合っている。その隙に、ケーニルがザイーガのもとへと歩み寄る。
「ザイーガ、大丈夫?」
「問題ない……だが、どういうことだ? 砂塵のデザンタがやられたという一報が入ってから音信不通だったから、俺はてっきり……」
「私はここにいる人間のアルヴィンに助けられて、それからはずっと彼のもとで暮らしているの」
「人間が魔人族を助けた……?」
信じられないって顔だが……無理もないか。
普通なら魔人族を助けるどころか近づこうとする人間すらいないだろうからな。
「そうか……人間と暮らしているのか……」
その話を聞いた直後、ザイーガはガクンと膝から崩れ落ちた。
ここで、俺はザイーガが相当なダメージを負っていることに気づく。――だが、その傷は明らかに動揺している目の前の三人組によってつけられた傷ではないのは明らかであった。
それはどう見ても、剣によってつけられた傷。
あの三人組は全員手ぶらだし……もっと別のどこかで誰かと戦闘し、その結果ついた傷だろう。
ところが、その傷がさっきの戦闘でより深いもの――それこそ、致命傷に至るほどとなっていた。
「ぐふっ!?」
苦しそうに緑色の血を吐きだすザイーガ。
これは……もう長くなさそうだ。
「ザイーガ!」
「最後に……いい知らせが聞けた……どうか……ケーニル……君は――」
そこで、ザイーガの口が動かなくなる。
命の灯が消えたのだ。
「ザ、ザイーガ……」
目に涙をためるケーニル。
どうやら、このザイーガって魔人族とはただの同僚ってわけじゃなさそうだな。
――残る問題は、
「へへへ、ザイーガは死んだか」
「とりあえずこれで任務は完了だ」
「ああ。報告へ戻るぞ」
俺たちの存在を完全にないもとしている魔人族三人。
だが――このまま帰すわけがない。
「待て」
俺が呼び止めると、三人は気だるそうに振り返った。
「なんだぁ? 生かして帰してやるんだ。ありがたいと思えよ」
「生かして帰す? ――悪いが、帰るのはあんたらからいろいろと聞き出してからだ」
そう言って、俺は魔剣を構えた。
魔人族なら魔剣のことを知っていると思っていたが、
「はっ! そんな剣で俺たちと戦おうっていうのか?」
どうやら、こいつらには魔剣という存在を認識することができないらしい。
なら――これでどうだ?
俺はさらに魔力を魔剣へと注いでいく。
「「「!?」」」
メアリーさんによって強化された魔剣から、凄まじい魔力量が溢れ出る。
「ど、どうなっているんだ!?」
「これが人間の魔力だというのか!?」
「あ、あり得ん!?」
そりゃそういう反応になるよな。
この魔力で――俺はおまえらの上司を三人倒したんだ。
さて、こいつらには聞きたいことが山ほどある。
騎士団への手土産も兼ねて――そして、ケーニルを悲しませた罰として……少し痛い目に遭ってもらうとしよう。
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