第215話 ケーニルの心境
「ぐはっ!? かはっ!?」
突如苦しみだした魔人族。
しばらく悶え苦しんでいたが、やがてまったく動かなくなった。
「これは……」
明らかに、何者かによって仕組まれた呪いの類。
「情報を聞きだすどころじゃなくなったな……」
恐らく、倒したふたりにも同じような呪いがかけられていたと思われる。さらに、こいつがなんの躊躇いもなく俺に情報を話そうとしたところを見ると……自分にそのような呪いがかけられているとは知らなかったのだろう。
「一体……何があったんだ……?」
何があったのかといえば――こっちもだな。
「…………」
まるでピンと張り詰めていた糸が切れたかのように、ケーニルは大人しくなっていた。
「ケーニル……」
その焦燥ぶりを見る限り、やはりあの子とザイーガという魔人族は特別な関係であったことが窺える。……なんとなくだが恋仲というより、家族に近い感覚だろうか。ただ、魔人族の間で、人間のような関係性が築かれているとは思えないが。
もう少し、ケーニルから詳しい話を聞きだせないものだろうか。
今の状態では難しそうだが……可能な限り近いうちに、それを実現したい。
「大丈夫、アルヴィン! ――って、何があったの!?」
こちらの状況を察知して、レクシーが駆けつけた。そして、俺の目の前で倒れている魔人族と呆然としているケーニルを見て動揺している。
「レクシー……ケーニルに手を貸してあげてやってくれ。ダンジョンの外に出る」
「えっ?」
「まだこの辺りに魔人族がいるかもしれないからな」
「わ、分かったわ!」
レクシーはケーニルへと近づき、ひと言ふた言声をかけると、手を取った。最初はまったく反応を示さなかったケーニルだったが、しばらくするとそれに応え、ゆっくりと立ち上がる。だが、まだダメージは残っているようだ。
現在の状況で、複数の魔人族と戦うのは避けたい。
今のところ、他に魔人族はいないようだが……油断は大敵だ。
慎重に行動し、一刻も早く離脱しよう。
俺たちはザイケルさんたちと合流し、すぐにダンジョンの外へと向かう。
魔人族がどんな目的でこのダンジョンに姿を現していたのか――その全容は掴めなかったが、魔人族がいたという事実は変わらない。そのため、ザイケルさんはこのダンジョンを当面封印することを決めた。
「結界魔法の準備を進めるぞ」
連れてきていた冒険者たちに撤退の準備をするよう指示を飛ばすザイケルさん。
この辺の決断の速さと手際の良さはさすがと言える。
「アルヴィン、ケーニルのことだが……」
「任せてください」
俺がキッパリそう言い切ると、ザイケルさんは何も言わず、ただニッコリと笑ってくれた。
それだけで十分だ。
信頼されていることが伝わってくる。
さて、と。
少し込み入った話になりそうだから、お店でゆっくりと晩飯でも食べながら聞き出すとするかな。
落ち着きを取り戻してくれたら、きっとケーニルも語ってくれるはず。
俺はそう信じている。
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