第279話 パニックの中で

 モンスターで溢れかえったダビンクの町を疾走する俺とシェルニ。

 散り散りとなった仲間との再会を目指していたが、一向に見つからない。


「フラヴィアとザラは……どこへ行ったんだ?」


 あのふたりがやられたとは考えづらい。

 それに、リサの話ではザイケルさんと合流しているとのこと。他にも多くの冒険者を率いてモンスター討伐に乗りだしたらしいから、無事だとは思うが。


「とはいえ……一体どれくらいの数が乗り込んできているんだ?」

 

 視線を動かせば、必ずモンスターを見かける。

 具体的な数は皆目見当もつかない。


 或いは――無限に増殖し続けているのでは?


 そう思ったのは、やはりあの不気味な闇色をした空にあった。

 ……以前、師匠が言っていたな。


 シューヴァルとの戦闘で魔界へ行った際、まず目に入ったのは異様な色彩をした空であった、と。それがもしこの闇色を指しているとするなら――今、ダビンクの町は魔界に飲み込まれようとしている? それなら、周囲にモンスターうようよ蔓延っている説明もつく。


「くそっ!」


 俺は進路をふさぐように襲いかかってきたゴブリンたちを斬り捨てながら叫ぶ。

 そんなこと、させてたまるか。

 ここは俺たちの町だ。

 ここでのんびり店をやりながら、仲間たちと穏やかに暮らす――その夢が叶いかけていたというのに、台無しにされてたまるものか。


 無我夢中でモンスターを倒していると、


「アルヴィンさん! シェルニさん!」


 遠くから俺とシェルニを呼ぶ声が聞こえる。

 この声は――


「フラヴィア!」


 間違いない、フラヴィアだ。

 どこにいるのかと辺りを見回していたら、倒壊した建物の陰に人影を発見。それは紛れもなくフラヴィアとザラのふたりであった。


「無事だったか!」

「おふたりも、無事のようですわね」

「大丈夫だった、ザラ」

「は、はい。シェルニさんの方こそ」

「私にはアルヴィン様がついていたから……」


 お互い、怪我もなく無事に再会できたことを喜び合ったが……まだレクシーとケーニルの安否は不明のまま。あのふたりはうちでも屈指の武闘派だから、ある意味、俺たちよりも生存している可能性は高そうだが――それでもやっぱり心配だな。


「そういえば、ザイケルさんは?」

「それが……騎士団からの応答がまったくないことに怒って、また緊急事態を知らせる信号弾を打ち上げに行きましたわ」

「何っ?」


 騎士団からの応答がない?

 それは妙だな。

 このダビンクは商業都市というだけあり、エルドゥーク王国にとっては経済拠点のひとつに数えられている。

 なので、何かしらの異常事態が発生した際、すぐに騎士団が駆けつけられるよう、空に色付きの煙が出る花火――信号弾を打ち上げて応援を要請するようにしていた。

 フラヴィアの話では、もうだいぶ前に信号弾を打ち上げたのだが、王都から騎士団が駆けつける雰囲気さえないという。


「騎士団に何かあったのでしょうか……」


 心配そうにこちらを見つめるシェルニ――だが、そうはとても思えない。

 何せ、今は明日に迫った魔王討伐作戦に向けて世界中から戦力が集中している状態。むしろ、彼らからすれば願ってもない魔王討伐のチャンスのはず。


 ――だが、待てよ。


「もしかしたら……」


 騎士団は――敵を魔王ひとりに絞り込んでいるのではないか。 

 せっかく整った戦力をここで消費したくないと考え、応援の騎士を寄越さないでいるのではないか。


 そんな不吉な予感が脳裏をよぎった。

 冷たい汗が額から零れ落ちる中――再び俺はあの強烈な魔力を感じ取る。


「な、なんですの!?」


 どうやら、高名な魔法使いであるフラヴィアは気づいたようだ。

 明らかにさっきより魔力量が増幅している――というより、その魔力を有した人物が接近してきていると言った方が正しいか。


 そう思える根拠は……その魔力には覚えがあったからだ。


「まさか――ヤツが近くにいるのか!?」

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