第291話 【幕間】それぞれの思惑

 アルヴィンたちがダビンクで魔人族と死闘を繰り広げ、なんとか撃退した次の日の夜。

 エルドゥーク城内では困惑が広がっていた。


「商業都市ダビンクが魔人族の襲撃を受けたらしい」

「なんだと!? それで、被害は!?」

「建物などは壊滅的なダメージを負いましたが、魔人族との戦闘自体は勝利をおさめたようです」

「なんという……」


 衝撃のあまり言葉を失った騎士団のアブリー副団長だった。

 そのアブリーへ報告を行ったのは彼の息子であるハミル――以前はフラヴィアの親衛隊を務めていたが、アルヴィンに敗北したことをきっかけに一念発起し、現在は騎士団へ入って鍛錬を積む日々を送っている。


 ハミルは王都の巡回中に偶然ダビンクから逃げてきた商人を保護し、その惨状を知ってすぐに騎士団へと報告した。

 ――が、


「おかしい……」


 アブリーは疑問を抱いた。

 ダビンクといえば、国内でも有数の都市。人口も多く、何より経済の中心地と呼べる場所であった。そんな場所で魔人族の襲撃などという大事件が起きれば、まず真っ先に国へ知らせが届くはずである。


 だが、騎士団が動く気配はまったくなかった。仮に、ハミルからの報告で事態を知ったにしても、救援に出るといった指示が来ることもない。


 壊滅状態にあるダビンクを放置している――それは考えられない判断であった。


「一体何があったというのだ……」


 詳細な情報を得ようとしたアブリーであったが、目前に迫った魔界への侵攻のため、国王や騎士団長には会うことさえできない。副団長という立場でありながら、救世主パーティーに名前を連ねていないという理由だけでその立場には大きな差が生まれていた。


 この一件は、騎士たちに大きな不信感をもたらせることとなる。

 本当に何も知らないのであれば、そのように報告をするはずだが、それすらないところを見ると、図星なのか、それとも単に関心がないだけか。

 魔王の首を取ることに固執するリシャール王子だが、それは徐々に見えない歪みとなって連合軍内部に広がっていくのだった。



  ◇◇◇



 同時刻。

 魔界――魔王城。


 人間界から戻ってきたシューヴァルのもとへ、ひとりの魔人族が訪ねてくる。


「どこへ行っていた、シューヴァル」


 そう声をかけたのは、同じく魔族六将に名を連ねる焔掌のガルガレムであった。


「貴様……何やらコソコソと独自で動いているようだな」

「それが何か?」

「まさか、裏切り行為ではないだろうな?」


 ガルガレムは戦闘態勢に入る。

 シューヴァルが反抗的な動きを見せているのは明確であった。確証を得たわけではないが、明らかに行動がおかしい。現に、今も予告なく人間界へと赴き、実験体と呼んでいた元救世主(ガナード)も忽然と姿を消している。


「さすがは六将で一番の古参だけはある。俺とは比べ物にならないほど、魔王様への忠誠心が強い……ある意味、尊敬に値するな」

「!」

 

 まるで、自分には魔王への忠誠心などない――そう取れる発言だった。


「やはり……貴様は人間側に!」

「短絡的だな。俺は寝返ったわけじゃない。――と言っても、これまで通りに魔王軍に所属し続けるというわけでもないがな」


 シューヴァルは魔剣を抜く。

 全身からは禍々しい魔力が立ち込めていた。


「本性を現したな!」

「ここらが潮時、か」


 シューヴァルとガルガレム。

 魔王城でふたりの六将がぶつかり合った。

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