第292話 出陣の朝
廃墟と化したダビンクの町に朝日が差す。
ダビンクから魔人族を追い払ってから二度目の夜が明けた。
それはつまり、俺たちが魔界へ乗り込む日がやってきたことを意味する。
「いよいよ、か……」
運命の三日目。
俺とフラヴィアとシェルニ、そして、今回のために協力を申し出てくれた魔法使いたち――そのすべてを集結させ、魔界への扉を開く。
町は朝から復興作業で大騒ぎだった。
もとからこの町に住んでいる人たち以外にも、多くの協力者が復興に協力をしてくれたおかげで、作業は順調に進んでいた。この調子なら、それほど長い時間をかけずに完全復活を果たせるだろう。
すでにリシャール王子率いる連合軍は魔界入りを果たしている。俺たちはそれを追いかける形になるわけだが……
「まさか、もう魔王を倒したなんてことはないよな」
少なくとも、リシャール王子が聖剣を扱えたとしても、あのシューヴァルを簡単に倒せるとは思えない。
それほどまでに、ヤツは強かった。
今回の魔界入りに関して、俺たちは魔人族であるケーニルからさまざまな情報を得て、有事に備えた。
彼女にとっては、元同僚と戦うことになるから、メンタル的にきついものとなる――そう考えていたのだが、
「魔界にいるより、こっちにいた方が楽しいし、守りたいと思えることが増えたよ」
一点の曇りも見えない微笑みを浮かべながら、ケーニルはそう告げた。
こうして、大きな戦力低下を免れた俺たち。
その全容は次の通りだ。
まず、俺とフラヴィア、そしてシェルニ、レクシー、ケーニル、ザラのいつもの面々。
正直なところ、最年少であるザラにはこちらへ残ってもらいたいという気持ちもあったが、本人と精霊たちの強い希望で同行することとなった。
前日、父親であるレイネス家当主が物資を届けてくれたのだが、その際、「娘をよろしく頼むよ」と肩を叩かれた。
てっきり、全力で止めに来るかと思ったが……歴代でもトップクラスだというザラの精霊使いとしての力が、この世界を救うもの――まさに救世主としての力だと、レイネス家当主は確信しているようだった。
もちろん、フラヴィアの父であるオーレンライト家当主も駆けつけた。
こちらはもう慣れたものといった感じで、フラヴィアに激励の言葉を贈っている。
両家からは補給物資の他、それぞれが抱える兵力を寄越してくれた。
魔王討伐を成し遂げること。
そして、怪しい動きを見せるリシャール王子の真意に迫ること。
魔界で待ち受けるのは……きっと想像を超えた過酷な戦い。
できることなら、魔剣を振るって戦うのはこれで最後にしたいな。
すべてが片付いたら、ここにいる真の仲間たちと一緒に、のんびりと店の経営に専念したい。
出発の準備を整えると、俺たちは場所を移動。
崩壊した南門を出て、少し開けた空間へとみんなを集めた。
「ここで次元転移魔法を発動させます」
俺がそう告げると、フラヴィアとシェルニが一歩前に出る。
さらに、各方面から集められた魔法使いたちが所定の位置についた。
これで……すべては整った。
「さあ――いくぞ」
深呼吸を挟んでから、魔力を込めた魔剣を天へ掲げる。
そこへ、フラヴィアやシェルニ、さらには集まった魔法使いたちが一斉に魔力を注いでいった。
集まった魔力はやがて魔剣を通して一直線に天へと伸びていく。
すると、その魔力はやがて空に魔法陣を描いた。
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