第207話 お宝ダンジョン?

 店の前には信じられない大行列ができていた。

 その数の多さに、フラヴィアやレクシーだけでは対応できなくなっている。

 しかも、


「店主のアルヴィンはどこだ!」

「アルヴィンに聞きたいことがあるんだよ!」


 どうやら、店の商品というより、客の大半は俺自身に用があるみたいだな。

 すると、


「! アルヴィンだ!」


 とうとう客のひとりに見つかってしまう。

 その声をきっかけに、周りの冒険者たちも次々に俺を視界に捉えると、まるで雪崩のように押し寄せてきた。


「あんたに教えてもらいたいことがあるんだ!」

「頼むよ!」

「店の商品は買うから、教えてくれ!」

「ちょ、ちょっとストップ!」


 客たちは俺に何かを教えてもらいたがっているようだが……正直、何を指しているのか皆目見当もつかない。興奮する客たちを落ち着かせると、俺はみんなが何を求めているのか、冷静に尋ねてみた。


「一体何があったんだ?」

「新しいダンジョンの話は聞いているかい?」


 冒険者たちを代表し、先頭にいた大柄の偉丈夫がそう聞いてくる。


「ああ……まだ直接目にしたわけじゃないが、今しがたギルドでその話を耳にしたよ」

「それなら話は早い! 俺たちに、新しいダンジョンの攻略法を教えてくれ!」

「はあっ?」


 いや、攻略法も何も――


「俺はまだそこへ行ったこともないんだ。攻略法なんて分からないよ」

「だ、だが、あんたは前も新しいダンジョンを見事に攻略し、ザイケルさんから信頼を得たじゃないか!」


 あったなぁ、そんなことも。

 ……でも、


「何も特別なことなんてしちゃいないよ。しっかり装備とアイテムを整えて、慎重に進んでいく。これだけさ」

「そ、そんな……」

「何かあるんじゃないのか? 簡単にダンジョンを攻略できる方法が!」

「あったら俺が教えてもらいたいくらいだよ」


 これは本音だ。

 もっとも、俺は商人だから、そう頻繁にダンジョンへ潜るわけじゃないけど。


 しかし……妙だな。

 なんでまた今回のダンジョンに限って、みんなこんなに必死なんだろうか。

 まあ、考えられる可能性としては――


「よっぽど高価なアイテムがドロップするみたいだね」

「「「「「うっ!?」」」」」


 その場にいた全冒険者から同じような反応。

 なんて分かりやすい……とはいえ、冒険者がお宝を追い求めるのは当たり前のこと。別にそれを責めるつもりなんて毛頭ないが、気になるのは情報の出所だ。


「ザイケルさんたちがお宝を発見した、と?」

「あ、ああ、ザイケルさんはあのダンジョンを大規模展開して、さらにこのダビンクを発展させようとしているみたいだ」


 いいアイテムがドロップするダンジョン。

 それだけで、宣伝効果は抜群だからな。




 その後、なんとか冒険者たちを言いくるめてその場から解散させる。


「ふぅ、帰ってきて早々に大変なことに巻き込まれたな」

「ですが、そのお宝が出るダンジョン……気になりますわね」

「ホントよね。そんなにお宝が出るなら、私たちも行こうかしら」

「私も行くよ、レクシー♪」

「う~む……」

「どうかしたんですか、アルヴィンさん」


 唸る俺を心配したザラが声をかけてくれた。


「なんでもないよ、ザラ。さあ、晩御飯にしようか」


 とりあえずその場は誤魔化して店の中へと入る。

 ……どうにも、その新ダンジョンってところはキナ臭いな。

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