第229話 男の正体
捕らえた男はラッセと名乗った。
必死に許しを請うラッセだが、どうもザイケルさんはこの男を知っているようだ。
「ザイケルさん……もしかして、前科者ですか?」
「まあ、そんなところかな」
「そ、そりゃないぜ! 俺は潔白だ!」
「救世主パーティーにいた頃は随分と好き勝手放題やったそうじゃねぇか?」
「えっ? 救世主パーティー?」
じゃあ、この男はもしかして――
「おまえの思っている通りだぞ、アルヴィン。――こいつは、おまえの後釜として救世主パーティーに剣士として加わった男だ」
やっぱりそうだったのか。
「うえっ!? ア、アルヴィンって……いつもガナードが愚痴っていた、魔剣使いの商人アルヴィン!?」
「あ、ああ……」
……いなくなっても愚痴っていたのか。
今さらだけど、心底嫌われていたんだな。
まあ、今となってはどうでもいいことだけど。
「アルヴィンの名を勝手に使い、ブロムスク夫人に偽のブランドバッグを売りつけたのはおまえだな?」
「は、はい……」
ラッセは俺が元救世主パーティーのメンバーであることを知ると、途端に大人しくなって自分の罪を認めた。
その態度の変わりようが気になって、少し尋ねてみる。
「随分としおらしくなったじゃないか」
「……救世主ガナードは、あんたを恐れていた」
「! ガナードが……?」
バカな。
あいつは俺のことを見下していた。
そんな態度は一部だって見せたことはない。
「聖剣使いのガナードが魔剣使いのアルヴィンを恐れていた、か」
「ガナードは酒が絡むといつもあんたの悪口を言っていたんだ。……でも、その内容をよく聞くと、アルヴィンは魔剣使いでありながらそれを完璧に使いこなし、自分でも敵わないような相手にも真っ向から立ち向かっていくとも取れた」
「ガナードがそんなことを?」
「そ、そうだ。あいつはあんたを認めていたんだよ」
そう語るラッセの顔つきから、嘘とは思えない――が、にわかには信じられないな。
「……バカな男だ。小さなプライドのために、アルヴィンに悪態をつき、とうとう追放までして……その結果、この前のタイタスのような末路に行き着くんだ」
かつて救世主パーティーに名を連ねたタイタスも、解散してからは悪党に成り下がり、今は監獄の中だ。
「おまえも救世主パーティーが解散して食い扶持を失ったタチか?」
「い、いや、俺は解散する前にもう見切りをつけて抜けだしていた。在籍していた期間なんてほんの二、三ヶ月だ」
「それで行くあてがないから犯罪に手を出したのか」
「ぐっ……そ、それは……」
言い返せないラッセ。
まあ、どう言い繕ったって、ブロムスク夫人に偽物を売りつけたという事実は消えないからな。
「さて、それじゃあそろそろ本題だ。――おまえのアジトはどこだ?」
「ア、アジト?」
「この北区のどこかにあるんだろ? おまえらの根城が」
「そ、それは……」
言い淀むラッセ。
――しかし、その視線は正直に一点を見つめていた。
「あそこか」
ラッセの視線が向いていたのは、立ち並ぶ倉庫のうちのひとつ。
どうやら、あそこに詐欺集団の黒幕がいるらしい。
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