第190話 宿屋決戦(?)
それは、最終目的地であるサルマーという町へ向かう途中で立ち寄った、ビージャン村の宿屋で起きた。
「えっ!? 部屋がない!?」
「は、はい、そうなんです……」
宿屋の店主は申し訳なさそうに頭を下げた。
店主の話によると、この村から東側のルートにある場所で大規模な土砂崩れが発生し、そちらへ向かおうとしていた人たちがみんなこの村で足止めを食らう格好になってしまったらしい。
「まいったなぁ……」
うちはパーティーメンバー全員女性だしなぁ。
野宿ってわけにもいかないし。
問題は……風呂なんだよな。
食事はなんとかなるが、入浴だけはきちんとした施設で入りたいだろう。みんな長旅で疲れているし。
せめて、共同浴場でも貸してもらえないかと交渉しようとしたら、
「その、部屋もまったくのゼロというわけではなくて……お客さんの人数分すべてをまかなうほどベッドが空いていないという状況なんです」
「? どういうことだ?」
「つまり、そちらの女性のうち、誰かひとりがあなたと同部屋で構わないとなれば、ギリギリご用意はできるんです」
そ、そういうことか。
しかし、さすがにそれはちょっと問題が――
「構いませんわ。それで行きましょう」
「フラヴィア!?」
カウンターで交渉していた俺の横からニュッと顔を出したフラヴィアが店主の申し出を了承してしまう。
「お、おいおいフラヴィア、それはちょっと――」
「しかし、ここを逃してしまっては、もう泊まれるチャンスがないかもしれませんわ」
「うっ……」
それは俺も危惧していた。
このビージャン村は、大都市同士を結ぶ中継地点として栄えているだけあって、宿屋の数は豊富にある。しかし、事情が事情だけに、今日だけはどこも大盛況で部屋の確保が難しいだろう。
ここを逃したら、あとは野宿……フィーユもいるし、それだけは避けた方がよさそうだな。
「わたくしとアルヴィンさんが同部屋になればいいだけの話ですし」
「ちょっと待ったぁ!」
さりげなく、話の流れで同部屋を主張しようとしていたフラヴィアだが、そこにレクシーが乱入。
「あたしがアルヴィンと一緒の部屋になるわ!」
「いやいや~、ここは私が♪」
「わ、私も、アルヴィン様と同部屋がいいです!」
「私も~!」
そこへさらにケーニル、シェルニ、ザラの三人が参戦表明。
……なんか、大変な騒ぎになってきたな。
「だ、大人気ですね、アルヴィンさん」
「あははは……」
五人の勢いに、フィーユもたじたじって感じだ。
……正直、俺は馬車の荷台で毛布にでもくるまっていようかと思っていたのだが……それは言いだしにくい空気となってしまった。
結局、同じ部屋に泊まるひとりはくじ引きで決めることに。
「よろしいですか、みなさん。ここに用意した五つの木の棒――その中のひとつは先端が赤く塗られています。それを引き抜いた人が、アルヴィンさんと一夜を共にできますわ」
……フラヴィア、誤解を招くような言い方はやめてくれ。
「「「「「いざ、勝負!!」」」」」
五人が一斉に棒を掴む。
その中で、赤色の棒を引き当てたのは――
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