第191話 選ばれた者は――

 厳正なる抽選の結果、俺と同部屋になったのは、



「ふ、不束者ですが、よろしくお願いいたします!」



 シェルニだった。


「そんなに緊張しなくてもいいよ、シェルニ」

「は、はい!」


 声が上ずっている。 

 うーむ……シェルニは、ガナードたちと行動を別にしてから初めてパーティーを組んだ相手――つまり、現パーティーにおいてもっとも古株にあたる。

 なので、そんなに緊張しなくてもいいのにとは思う。

 今も、ベッドの上で正座し、まったく動こうとしない。


「あ、そういえば、この後みんなで共同浴場へ行くって言ってなかったか?」

「! そ、そうでした!」


 大慌てのシェルニ――が、慌てすぎてしまったせいなのか、その場で服を脱ぎだそうとする。


「シェ、シェルニ! 服を脱ぐなら風呂場へ行ってからだ!」

「へっ? ~~っ!!」


 真っ赤になって部屋を出ていくシェルニ。

 うーん……年頃の女の子というのは、どうも掴みにくい。


 シェルニが戻ってくるまでの間、明日のルートを地図で確認しておこう。


「トーレス商会……いや、この場合、本当の意味で敵視しなくてはいけないのは――」


 裏でクラーク・トーレスを操っている人物。

 相当な組織なんだろうな。

 念のため、フィーユが尾行されていないか周辺を警戒していたが、それらしい者たちを捉えることはできなかった。


「ヤツらがフィーユを特別扱いしていないというのは本当らしいが……だとしたら、なぜそこまでトーレス商会にこだわる?」


 正直、オーナーであるクラーク・トーレスの娘を手懐けるなり人質に取るなりすれば、回りくどく取り入ろうとしなくても、商会を自由にできたはず。

 それを、逃がした上に一切無視というのはどういうことだ?


「……さまざまな可能性を考慮しておく必要がありそうだ」


 今回ばかりは先が読みづらい。



 ――と、考えているうちに、


「おっと、もうこんな時間か」


 気がつけばかなりの時間が経過していた。


「風呂の利用時間が迫っているけど……遅いな、シェルニ」


 まだ入っているのか?

 ……しょうがない。

 一度ロビーに行って、誰かいないか捜してこよう。

 その子に部屋の鍵を預け、あとでシェルニ渡してもらえばいい。


「今日ばかりは俺もゆったりと湯に浸かりたいからなぁ」


 同じ姿勢で長時間いるものだから、すっかり体が硬くなってしまった。目的地まで半分を過ぎているとはいえ、距離にすればまだ長い。明日のためにも、今日はしっかり休んでおかないとな。


 そう思って、タオル片手に部屋のドアを開けると、ちょうどシェルニが入ってこようとする直前だった。


「あれ? シェルニ?」

「ア、アルヴィンさん!?」


 うん?

 なんでそんなに驚いているんだ?


「あのあの、遅くなって申し訳ありません!!」

「あ、いや、気にしてな――」

「それではお先に失礼します!」


 シェルニは物凄い勢いで部屋に入ると、そのままベッドへダイブ。頭からシーツをかぶって寝てしまった。


「な、なんだ……?」


 ……まあ、大体想像できる。

 きっと、フラヴィアとレクシーあたりにからかわれたんだろうな。あのふたり、くじを外した時、めちゃくちゃ悔しそうにしていたし。


「まったく……やりすぎないように注意をしておかないとな」


 ポツリと呟いて、俺は共同浴場へと向かった。

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