第122話 遅れてきた者たち
魔族六将のひとり――深緑のレティルは倒れた。
その最大の勝因は、敵側の「焦り」にあると俺は分析している。
というのも、レティルは前に倒したデザンタと恋仲らしく、その敵討ちのためにすぐさまこちら側に攻撃を仕掛けてきた。
そのため、彼女はまともに対策を講じておらず、なんとか返り討ちにすることができたのである。
もし、レティルとデザンタの関係が希薄で、こちら側の力を冷静に分析することができたのなら、すぐさま乗り込んでくる無茶なマネなんてしなかったろう。仮にも魔王軍幹部がやられたのだ。デザンタが油断して負けたと判断する前に、もう少しやりようがあったはず。
短期間のうちに魔族六将ふたりを撃破――前回はガナードの功績ってことにしておいたが、今回は共に植物の城絡みの事件に関与した多くの冒険者が証人となっている。騎士団側に情報が漏れるのも、時間の問題だろう。
――まあ、今はそんな心配をするよりも先にやらなければならないことがある。
それは……消火活動だ。
「フラヴィア! 水魔法で火を消すぞ!」
「分かりましたわ!」
「シェルニは防御魔法でこれ以上火が広まらないようにしてくれ!」
「はい!」
「レクシーはみんなの誘導を頼む!」
「お安い御用よ!」
三人それぞれに指示を出し終えると、俺はフラヴィアと共に消火活動へと参加する。ケーニルについては、再びローブをかぶせてシェルニの近くに横たわらせておいた。あの子には、これからいろいろと聞きださなくちゃいけないことがあるしな。
消火活動は思ったよりも早く終了した。
これについては、俺よりもフラヴィアの活躍が大きい。
本当に、腕を上げたよ。
そう褒めたら、
「わたくしにとって、アルヴィン様が良い指南役となっておりますので」
とのこと。
俺は特に魔法を教えたことはないのだが……本人曰く、俺が戦っている姿自体が良い教材なのだという。
「これからも、良い師匠であっていただきたいですわね」
穏やかな笑顔を浮かべて語るフラヴィア。御三家令嬢に師匠と呼んでもらうのは大変光栄なことだと思うが……なんだか凄いプレッシャーでもあるな。
「旦那! お疲れ様です!」
そこへ、ネモが合流。
「まさか魔族六将を打ち破ってしまうなんて……」
「日頃の特訓の成果が出たかな?」
冗談半分に言うが、ネモは真に受けたようで、「さすがは旦那だ!」と瞳を輝かせながら俺を見つめる。……どうやら、答え方を間違えたらしい。
興奮するネモをなだめていると、遠くから何やら物音が聞こえる。それは徐々にこちらへ近づいているようだ。
――って、しまった。
すっかり忘れていたけど、騎士団がこちらへ近づいているんだった。
……ということは、つまり、
「ガナード……」
ヤツが来るということ。
俺はすぐさま離れようとしたが、
「やあ、久しぶりだね――商人くん」
俺に向かって投げかけられたその言葉――聞き覚えのある声だ。
振り返ると、そこには人の良さそうな笑みを浮かべる小柄な青年がいた。
「ジェバルト騎士団長……」
「古代遺跡以来だね? あの時のリザードマンは元気にしているかい? いやぁ、それにしても驚いたよ。まさか君が魔族六将を倒したなんて」
ジェバルト騎士団長は一気にそう捲し立てて俺の手を両手でガッチリと掴んだ。
「本当に喜ばしいことだ。――魔王討伐に向けて、頼もしい仲間が増えたよ」
「仲間? ――あっ」
俺はそこで初めて気づいた。
ジェバルト騎士団長の背後にいた四人分の人影を。
ガナード。
リュドミーラ。
タイタス。
フェリオ。
全員、複雑な表情を浮かべながら、俺たちの方をジッと見つめていた。
妙な空気が流れる中、ジェバルト騎士団長から思わぬ提案がなされる。
「どうだろうか、アルヴィンくん――救世主パーティーに復帰しないかい?」
「えっ……?」
俺はたまらず固まってしまった。
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