第121話 決死のレティル
ケーニルの退場により、レティルとの戦いがいよいよ佳境へと入ろうとした時――まるでそのタイミングを見計らっていたかのようにやってきた者たちがいた。
「ガナード? 救世主が今さら何をしにここへ?」
フラヴィアはそう言うけど、救世主の本来の役目は今俺たちが戦っている連中を倒すことなんだよなぁ。
しかし、デザンタ戦の時、ガナードは満足に戦える状態じゃなかった――いや、この場合はガナードというより聖剣がという方が正しいか。
ともかく、今のガナードが参戦したところで状況は好転しない。
いない者と考えて、レティルと植物巨人に全神経を注ぐとしよう。
さっきのケーニルとの戦闘で、物理的なダメージは無効だと分かった。どれだけあの巨人を傷つけようが、周りに植物がある以上、あの巨人は何度でも復活する。
そして、それは何も植物巨人に限ったことではない。
「増援も来るみたいだし、そろそろ終わりにしましょうか」
レティルが再びプラント・ゴーレムを呼び起こす。その数は先ほどよりも多く、ざっと五十体はいるだろうか。
深緑のレティル……これが最後の猛攻か。
「終わりよ!」
五十体を超すプラント・ゴーレムに植物巨人。一斉にこちらへと向かってくる中――俺は魔剣に魔力を込めた。
目的はただひとつ――向かってくる連中を片っ端から消し炭にすること。
「《焔剣》……」
ゴウッ!
魔剣に込めた魔力は、瞬時に炎へと姿を変えた。
「あら? やけくそ? それとも、火食い草の存在を忘れたのかしら?」
煽るレティル。
勝った気でいるようだが――そのニヤけた顔ごと薙ぎ払ってやる。
「はあっ!!」
俺はさらに魔力を魔剣へと込める。その量は、普段の三倍。
通常、これだけ魔力を消費すれば底を尽く――だが、俺の魔力量はこの程度では枯渇しない。師匠が俺に魔剣を託した理由のひとつが、この魔力量の多さだった。
「なっ!?」
俺の全身から迸る魔力をまとった炎。
その威力は火食い草ごときでは止められない。
逆に、炎の方が火食い草を呑み込んでいく。
――と、状況をのんびりと眺めている暇はなかった。
「フラヴィア!」
「な、なんですの!?」
「君は一旦、シェルニたちと避難しろ! そして、階下にいる冒険者たちにも逃げるよう指示を出してくれ」
「わ、分かりましたわ!」
フラヴィアは俺の意思を汲み取ってくれた。
ここで、「残って一緒に戦う」と粘られたら、かえってやりづらい。それを、フラヴィアはすぐに理解して、この場から去る決断をしてくれた。
「行きますわよ、シェルニさん! それにレクシーさんも!」
「は、はい!」
「分かったわ」
三人は未だに気を失っているケーニルを支えながら退避。
これで――心置きなく暴れられる。
「……《火の鳥》」
フラヴィアたちが部屋から出ていったのを確認してから、俺は魔力を練り直す。威力はそのままに、炎を鳥の形に変えた。
今のような、一対多数の状況だと、こういう形状の方が便利だ――一掃するには。
「焼き尽くせ!」
俺が剣を振るうと、それを合図に火の鳥は植物モンスター軍団へと向かっていく。火食い草ごときでは触れただけで灰になるレベルの熱量を持った炎。それらはあっという間にモンスターたちを消していく。
それは、植物巨人とレティルも例外ではない。
「ぐっ……デザンタ……私もそっちに――」
火の鳥はレティルを呑み込み、激しい火柱となった。
「おっと、そろそろ俺も出ないとまずいな」
炎はあっという間に城全体へと行き渡る。何せ、周りは植物だものな。
と、そこへ、
「アルヴィン様!」
シェルニの声がしたと思ったら、俺の全身を気泡のようなものが包む。それは魔力で出来ており、炎の熱から俺を守るシールドの役割を持っているようだった。さすがは防御魔法と回復魔法のスペシャリストだ。
「こっちです! ネモさんが出口を用意してくれていました!」
「分かった。すぐ行く」
こうして、俺たちは植物の城から脱出。
ふたり目の魔族六将――深緑のレティルを打ち破ることができた。
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