第195話 ケーニルの不満

 ビージャン村を出た俺たちは、トーレス商会の本拠地があるサルマーを目指して早々に出発。


 道中は思ったよりもスムーズに進行し、本来の到着予定時間よりもだいぶ早い時間帯でたどり着きそうだ。


「向こうへ着いたら、まずは宿を探さないと」

「今度はいっそのことみんなでひとつの部屋っていうのはどう?」

「……さすがに寝苦しくなるんじゃないか?」


 レクシーは名案を閃いたって感じに話すが、さすがにそれはないな。




 のどかな山間の道を進んでいくうちに、段々と民家の数が増えてきた。

 それに伴い店も増えていき、ついには大きなひとつの都市へと姿を変える。


「あれか……」


 高い塀に囲まれた大都市サルマー。

 ここに、フィーユの父親でトーレス商会を束ねるクラーク・トーレスと、その人を陰で操っている黒幕の男がいる。


 とりあえず、このまま突っ込んでいくのは危険だろうと判断した俺は、まずは少数で町の状況を探ることにした。

 俺がみんなにそう提案すると、


「はい!」


 元気よく手をあげたのはケーニルだった。


「ケーニル? どうした?」

「私が行く! アルヴィンと一緒に町の様子を探るよ!」


 立候補だった。

 その申し出とヤル気は大変ありがたいのだが……魔人族のケーニルを知らない町で連れ歩いた場合、こちらが望まぬ余計なトラブルを起こしかねない。


「ケーニル……君のそのヤル気は買うけど……さすがにここでは難しいよ」

「そ、そんなぁ……」


 物凄く落ち込むケーニル。

 うぅ……罪悪感が……。


「……私、全然アルヴィンの役に立ててないよ……」

「そんなことはないさ」

「そうですよ!」


 真っ先にフォローへ回ったのはシェルニだった。シェルニはケーニルの手を取ってアツく語る。


「このパーティーの中でいえば、アルヴィンさんの次にケーニルさんの戦闘力が高いんです! 命を懸けたダンジョンや魔人族との戦いでは、凄く貢献していますよ!」

「シェルニさんの言う通りですわ」

「そうよ。あなたは戦闘でアルヴィンの役に立っているじゃない」

「ケーニルさん、元気出してください!」


 シェルニの言葉に続き、フラヴィア、レクシー、ザラもそう伝える。 

 魔人族であり、肌や目の色が人間とは異なるケーニル――魔族六将の脅威が未だに消えない今では、彼女の存在自体が恐怖そのものと捉える者もいるだろう。

 ゆえに、町中での行動なども制限されているが、その分、高い戦闘力でパーティーの勝利に大きく貢献してきた。鉄塊のアイアレン戦では特にその影響が強く出ていた。


「大丈夫だよ、ケーニル」

「アルヴィン……」


 俺はケーニルを落ち着かせようと、優しく頭を撫でる。

 最近分かったことだが、ケーニルはこれが好きらしい。

 身体(主にスタイル)は人間の大人の中でもトップクラスの成長を見せるが、精神の成長はまだまだこれから。精神年齢的には、もしかしたらシェルニよりも幼さがあるかもしれない。


 ケーニルが落ち着いたところで、いよいよ潜入調査をするための相方選びを始める。

 ――と言っても、こういった役目に適任なのは、


「レクシー、頼めるか?」

「任せて♪」


 レクシーだ。

 御三家令嬢のフラヴィアと、ローグスク王国の姫君であるシェルニは顔を知られている可能性がある。レクシーも、御三家のひとつであるハイゼルフォード家の人間であるが、それは遠い過去のこと。成長したレクシーがハイゼルフォード家の人間あると知る者はほとんどいないと思われる。


「よし。行くぞ、レクシー」

「OK!」


 馬車を町外れにある小川のほとりにとめると、その場をフラヴィアたちに任せて俺とレクシーは町を目指す。


 ……何も起きなければいいんだけど。

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