第196話 大都市サルマー

 周囲が暗くなり始めた頃、俺とレクシーはサルマーへと潜入するため検問所へと向かった。

 ここでは壁の向こう側にある町へ入るのにさまざまな検査を受ける必要がある。


 とはいえ、俺にはキースさんが身分証明をしてくれているため問題なくパスすることができたが、その際、検査を担当している自警団の人に驚かれた。

 

「あの大商人に認められているとは……」

「古い付き合いなんです」

「なるほど。――っで、そっちの子は?」


 自警団の人は俺とレクシーの関係を尋ねてきた。

 しまったな。

 そこまで打ち合わせしていなかった。

 まあ、適当に同業者とでも言って――


「妻です」

「!?」

 

 レクシーは平然とそう告げた。


「ほう、若い夫婦だな」

「えぇ。もう熱烈にアプローチをされて参っていたんですけど、その熱意に負けてとうとう結婚しちゃいました♪」


 ……よくもまぁスラスラと出てくるな。

 しかも、よく見たら耳が真っ赤だ。

 口から出まかせを言いつつ、内容が内容だったんで恥ずかしくなってきたんだな。


 その後、検問所から出て、町の中へと入る。

 

 救世主パーティーにいた頃でも、ここへは来たことがない。

 そのため、これが初見となるわけだが……これといって何か目立った特徴があるわけではなさそうだ。


「もう少し奥まで行ってみるか」

「そ、そうね」

「…………」


 レクシーの態度がぎこちない。

 自分からあんなことを言ったのに……完全に自爆だな。

 しかし、夫婦って言った以上はこのままというわけにもいかない。


「レクシー」

「何? ――っ!?」


 俺はレクシーの手を握る。


「これくらいはしないとバレるぞ」

「あっ! そ、そうね! 私たち結婚したんだったわね!」

「……そういう設定な」


 フラヴィアが聞いたら揉めそうな嘘だな。

 俺はそんなことを考えつつ、胸ポケットから小さな石をとりだす。


 こいつは連絡手段用の魔道具だ。

 対になる石があり、ひとつに魔力を込める発光し、それと連動してもうひとつの石も発光するのである。これは遠く離れた相手に今の状態を知らせるために用いられる。


 俺は魔力を込めて、一回目の信号を送る。これで、「町へ入った」と、外にいるフラヴィアたちに知らせるのだ。あともう一回発光させれば、それは「宿屋を確保したから町へ入って来い」の合図となる。


 レクシーと手をつなぎながら町の中心部へ。

 そこで、俺たちは巨大な建造物を発見する。


「な、なんだ、あれは……」

「随分と大きな建物ね……それに、あんなにたくさんの発光石をくっつけて……もうじき夜だっていうのに、凄い明るさだわ」


 それは、これまでに見たことのない建物だった。


「何なんだ……?」

「じっくりと調べた方がよさそうね」

「だな。それよりもまずは宿屋だ。みんなと合流して作戦を立てよう」

「そうね。あっ! あそこなんてどう?」

「うん? ――っ!?」

 

 レクシーが指差した先にあったのは確かに宿屋だ。

 しかしあれは……愛を囁くのに特化した方の宿屋。

 

「レクシー……さすがにあれは……」

「…………」

「レクシー?」


 レクシーは恥ずかしさのあまり硬直していた。

 どうやら、ただの宿屋と思っていたらしい。


 やれやれ……前途多難だな。

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